第三章『猿助の恐怖体験』

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 五村の猩猩たちが根城にしている猩猩屋敷は螺旋楼閣で、電気ではなく火で照らされた何ともノスタルジーを感じさせる建物である。  その楼閣の最上階に大将である猿助の部屋があった。  私も招かれたことのある場所で複数ある部屋の一つに猿助が集めに集めたコレクション部屋がある。  猿助のエリアは全体的に胡散臭い和洋折衷の無駄に煌びやかな部屋が多く、趣味の悪い古美術商のお店の様だったのを覚えている。  猿助が言うには中でも飛びきりのコレクションを集めて飾っている部屋が今回の問題の部屋なのだそうだ。 「で? 集めた物の中に付喪神でも付いていたの?」  私がやる気なさげに聞けば猿助はぶんぶんと首を横に振って身を乗り出した。 「とんでもねぇ奴がいるんだよ」 「どんなのよ」  どこから手に入れたのか古今東西の骨董品の中には危険な物もあったということか。 「たぶんな、人形なんだ」 「たぶんって何よ」 「そいつが中で暴れるから部屋に入れねぇんだよ。どうにかしてくれ」 「……ちょっと待って。人形が動いてるってこと?」 「たぶん」 「だからたぶんって何なのよ。見てないの?」 「見たには見たんだけども、ちょこまか動いて隠れやがるもんだからはっきりと見てねぇんだ」  肩を竦めた猿助は押し黙り、私は考える。  猿助のコレクションの中に人形が居て、よく解らないけど動き出して部屋に入ろうとする猿助を威嚇している、と。  簡潔にまとめて私は溜息が出た。 「自分で何とかしなさいよ、そんなの。出来るでしょ」 「できねぇからこうして頼みに来てるんじゃねぇか!」 「あのさ、出来ない訳ないよね? 自分でなんとかしなさいよ、そんなの」  だって猿助は猩猩なのだ。  猩猩とは人間世界では架空のあやかしで畏怖される存在であり、動く人形だって人間世界では有り得ない存在だ。  有り得ない存在同士なんだから話し合いとか出来るはずである。  私が呆れて立ち上がると猿助は足元に膝を進めて頭を下げた。
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