第三章『猿助の恐怖体験』

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「頼む!」 「嫌よ。面倒臭い」 「頼む!」 「どうして自分で何とかしないのよ」 「だって怖いだろうが! 人形が動くんだぞ!?」 「はっ?」 「人形が動くんだぞ!? 怖いだろ!」  必死な形相の猿助は本当に怖がっているようで、私は目が丸くなった。  だって猩猩の猿助が動く人形を怖がるって。  自分だって同じ穴の狢の存在なのに。  幽霊やお化けを怖がる人間は多い。何故なら普通では有り得ないことだから。  でも猿助は自分がそう云う存在なわけだし、同類を怖がるって、人間が人間を怖いと思うのと同じだ。  確かに怖いと思う人間はいるけれど、基本的に人間という存在は怖くない。 「まぁ……怖いとは思うけど、所詮は人形なんだし」 「呪われたらどうすんだ!」 「あんたねぇ……」  私は眉間に指を添えて再び溜息が出る。  動く人形は確かに怖い。これは認める。  でも呪われたらどうしようとか。  そんなの良く解かんないけど猩猩の力とかでなんとか弾き返せば良いだけの話じゃないの?  そもそも猩猩にだってそういう力はあるはずだし、出来ないことはないだろう。  呆れかえる私に猿助はさらに詰め寄り、着物の裾を掴む。 「護り手にお祓いしてもらいてえんだよ!」 「お、お祓い?」 「そういうもんはお祓いをして供養するもんだって鳴丸が言ったんだ」  鳴丸とは猿助の右腕の参謀役を務める猩猩で、気苦労が多そうな猿である。 「だからここに来たわけね。ていうか、お祓いだったら神社でもお寺でも出来るからこっそり持って行けば良いじゃないの」 「持って行く前に捕まえられねぇんだってばよ! だから! 怖いし、呪われたらどうすんだ!」 「捕まえられないんだったら玉彦にだって祓えないわよ」 「だーかーらー! お前に頼みに来たんだろうが!」 「えええっ。私だって捕まえられないわよ。そんなに俊敏に動けないもん」  しかも一応妊婦である。  いくら竹婆に適度な運動は必要と言われているとはいえ、暴れて逃げ回る人形を捕まえるのは無理だ。 「お前の眼で止めてくれよ!」 「あぁ……! そういうことね」  確かに神守の眼であれば視界に人形を収めれば止めることは可能だった。  でも暴れてる人形が居る部屋に、そもそも猩猩屋敷に私が行くのは無理だ。  絶対に玉彦の反対にあうのが目に見えている。  もし玉彦が一緒に行ってくれると言ったとしてもだ。問題はある。
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