第一章『産土神の隠れ社』

3/14
1065人が本棚に入れています
本棚に追加
/627ページ
 無言のままの玉彦の後を追い、離れの玄関で豹馬くんと須藤くんと合流。  私は二人の持ち物をチェックして、余計なお金を没収した。  いつもなら二人は止める側になってくれるけれど、今回は止めるどころか一緒になって選んでいるから困りものだ。 「今日はお買い物しないで帰って来てね。それと、お役目を無事に終えられますように」  没収した札束を悪代官のように着物の袖にしまえばズシリと重い。  離れで帳簿を預かる松梅コンビ、そして那奈と高田くんには私から後で釘を刺しておかねば。  三人は顔を見合わせてからがっくりと肩を落として玄関を出る。  私は草履を引っ掛けて駐車場でお見送りをしてから、振り返る。  秋晴れの高い空に、裏門の黒が良く映える。  今日の天気予報では終日晴れだったから、お布団と座布団でも庭に干そう。  多門も腕がすっかり良くなったので、手伝ってくれるはずだ。  多門といえば私が双子を宿したと知ったその時から、色々とお世話をしてくれるようになった。  妊娠したと知った時はそうでもなかったのに、である。  食事はしっかり栄養を考えて、と私に二人分の食事をさせようとする玉彦や澄彦さんを叱り、お腹が大きくなって来たら痛くならないように今から竹婆に頼んで塗り薬を塗り込んでおけるように頼みに行ってくれたのも多門だった。  多門は自分も双子で、誕生と共に母親を亡くしてしまっていたので私に思うところがあるようだ。  父親的視点で玉彦に肩入れする豹馬くんや須藤くんと対になっているのが多門で、彼は私の意見を最大限に聞いて、駄目なところは遠慮なく指摘する。  まるで私の弟のようにシスコンぶりを発揮していた。  六年後、この五村を玉彦と私の子供を一人だけ連れて出て行くことになった稀人の三人は、八月のあの日から少しだけ変わって、でも全然変わっていない。  豹馬くんは亜由美ちゃんとしっかり話し合ったようで、翌日には出て行くことが決定した。  私と玉彦はそれを聞いてすぐに亜由美ちゃんに会いに行って、ひたすら頭を下げ続けた。  八年間、全く五村に帰って来られないのだ。  親が亡くなろうとも、子供が産まれようとも。  けれど亜由美ちゃんはいつものようにほんわかと笑って、色々と思うこともあるけれど、両親は八年放って置いてもお互いに仲良く何とかするだろうけど、豹馬くんを一人にしておけない、と言い切った。  親と引き離されることになる子どもも一人にしておけないし、何よりも男三人の手で育てられる子どもに不安しかないと苦笑いだった。  ついでに都会での生活も楽しみだと言ってくれて、昨晩は豹馬くんと都会での暮らしについての話の方が盛り上がったと教えてくれた。  八年の間、亜由美ちゃんの両親について全面的に正武家が責任を持つと玉彦は約束し、亜由美ちゃんは一度だけ頷いた。
/627ページ

最初のコメントを投稿しよう!