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酷く焦った様子の玉彦は私に迫って両肩を掴む。
「隠れ社が現れた。すぐに行くぞ!」
「えっえええっ!?」
手を引かれて車に押し込まれ、玉彦と同時に車から降りていた豹馬くんが澄彦さんを連れてくる。
澄彦さんは既に南天さんと午前のお役目中だったので、白い着物で前を若干肌蹴させながら駆けて来て、後部座席の私の隣へ飛び込んだ。
「須藤! 出せ!」
玉彦の声と共に車は山道を勢いよく下る。
「どこへ向かえば」
「下って左だ。急げ」
指示通りに車は進み、以前お祭り前に私と玉彦が隠れ社を見かけた田んぼの畦道で、私たち三人は車を降りた。
山を見上げれば、確かに中腹辺りが歪んで視える。
もしかしたら隠れ社は決まった道を、期間は不定期で廻っているんじゃないだろうか。
当時次代だった澄彦さんと現在次代の玉彦は隠れ社を見かけたら鈴白行脚へと出掛けるけれど、順路について深く考えたことはなかったようで、隠れ社を探すにあたっては見かけたら突入すると全くもって曖昧な作戦を立てていた。
なので澄彦さんと玉彦はお役目が終わって夕餉の時間までそれぞれお山で隠れ社を探すのが日課になっていた。
「さぁ、東さんを迎えに行くか」
澄彦さんは白い着物の袖を捲り上げてやる気を示す。
「私、全っ然心の準備が出来てなかったんですけど」
「俺と父上がいる。何とかなる」
確かに五村内で正武家の人間が二人も揃っていれば、どんな不可思議なことだってあっという間に解決出来てしまうだろう。
しかも五村の意志という存在のお墨付き。
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