第一章『産土神の隠れ社』

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 車に残っていた須藤くんに澄彦さんがこれからの指示を出し、彼はすぐにお屋敷へと戻った。  恐らく御門森の宗祐さんが呼び出され、本殿の巫女である竹婆と香本さんが本殿で私たちを待つはずだ。  無事に東さんを保護できたなら、まずは本殿へ運び込まなくてはならないから。  東さんは二十年以上、外界から隔てられ、時間の流れが穏やかな領域にいた。  それを元の時間の流れの世界へと戻せばどうなるのかというと、急速に肉体が衰えるか、そのままの状態から年を普通に取り始めるかのどちらかだそうだ。  普通に年を取り始めるのなら良いのだけれど、急速に四十代から六十代の肉体へと衰えるのは肉体的にも精神的にも負担は計り知れない。  なのでまずは本殿にて東さんを過ごさせ、様子を見なくてはならなかった。  と、ここまでは私たちが『東さんが戻ることを決めたなら』と想定した場合である。  もし東さんが現世へと戻り、肉体的に衰え、もしかするとあまりの負担から命を落としてしまうかもということを聞いて、ならば隠れ社で過ごす、と決めた時は残念ながら私たちは三人で帰ると話し合いで決めていた。  ちなみに宗祐さんはもし東さんが残ると決めたら、自分も隠れ社で余生を過ごすと澄彦さんに願い出ていた。  そして澄彦さんはそれを了承している。  夏祭りのあと、宗祐さんに謝罪に出向いた澄彦さんは宗祐さんに責められなかったものの、有無を言わさぬ宗祐さんのお願いに頷くしかなかったそうである。なぜなら原因の一端は自分にあり後ろめたさもあったから。  そんな感じで東さんの捜索は隠れ社を見かけたら、ってなっていたけど、流石に唐突過ぎて私も焦る。  一応青紐の鈴は懐にあるし、玉彦の御札も持っている。  最近はお屋敷のすぐ外に出る際にも持ち歩くことを心掛けていた。  澄彦さんと玉彦も一緒だから心配することは何もない。はずである。 「さぁ、行こう」  差し出された澄彦さんの手を取れば、私の空いている左手を玉彦が掬い上げる。  玉彦を見上げれば、優しく目を細めていた。 「豹馬が居なくなる代わりに東が戻って来れば宗祐も寂しくはあるまい」 「……うん。そうだね。私たち、頑張らなきゃだね」  二人の手を握り返してお山を見れば、隠れ社へと誘う歪みがゆっくりとこちらへ移動してきた。
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