第一章『産土神の隠れ社』

7/14
前へ
/627ページ
次へ
「まさか当主になってからここへ来ることになるとはねー」  澄彦さんはそう言って手水場で手と口を漱ぎ、感慨深そうに神社を遠巻きにして眺める。  手水場の順番を待って最後に私が神社を眺める二人に並べば、隠れ社は変わらずにそこにあった。  ちなみに神様の気配は今回もない。いつもここに居るとは限らないようである。 「まずは東を探すか」  玉彦の言葉に三人で頷いてとりあえず拝殿に上がりお参りをする。先ほど豹馬くんから没収した札束はお賽銭箱の中へと消えた。   そこから見える幣殿も覗いても、供物はあれど東さんの姿は無い。  彼女もまたいつも居るとは限らないようである。  決まった時間に供物を運び入れるのか。そうすると普段彼女はどこで生活をしているのか。  そもそも供物はどこから調達して食事は、日常生活はどうやって送っているのか全くの謎だった。 「比和子ちゃん。東さん、居る?」 「まだ視えません」  そして最大の謎は、私に視えているのに正武家の当主と次代に彼女の姿が視えないということ。  考えたくはないけど、既に鬼籍に入っていれば彼女の姿は彼らには視えなくて当然で、一番恐れていることだった。 「では前回出来なかった清掃でもして待つことにするか」  正武家の次代が隠れ社を訪れた際にはお掃除をするのが決まりだそうで、玉彦は神社の脇にある小さな小屋へと一人で入り、箒と塵取りを持ち出す。  澄彦さんも慣れた手つきで小屋からバケツと雑巾を持ち出し、神社の裏手にあると思われる井戸へお水を汲みに行く。 「私も手伝うよ」 「比和子はせずとも良い。その辺を散歩でもして東を探せ。ただし社の領域から出るなよ?」 「わかった」  こういう場合。領域から出ると痛い目に遭うパターンなので、絶対に出てはならない。  特にこうして玉彦からの忠告があった場合は百発百中だ。  これまでの私なら知らず知らずのうちに領域を出てしまい、だから言っただろう!? と玉彦の叫び声が上がる。  けれど私だって経験を積んで成長している。  なので掃き掃除をする玉彦の半径三メートル以内をキープして周囲を散策する。
/627ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1069人が本棚に入れています
本棚に追加