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俺はそのアパートを見て、ぶわっと脇汗が一気に出る。まさかとは思っていたが、そのまさかが的中してしまった。本当に世界というのはつくづく狭い。まさか俺が暮らしているアパートに、俺が受け持っている生徒が住んでいるなんて思ってもいなかった。
どうして、こうなったんだ、世界。こんな奇跡、あっても嬉しくない。
「え、もしかして先生もここに暮らし——」
「しっー!」
俺は人差し指を口に当て、出せるだけの息を吐くと、彼女が眉をピクリを動かして、また溜息を吐く。
「嘘でしょ……」
倉敷が悟ったようで、その場に崩れ落ちると、小さく「三浦……お前」と呟く。突っ込む方がいいのか、はたまた聞こえないふりをするべきなのか。取り合えず、今は突っ込めるような気力はない。それにどれだけ注意しても、その呼び方は直らない気がする。
「世界、せっま……」
俺は力無き笑い声を上げながら、快晴の夜空を見上げる。月は倉敷が言った通り、すごく綺麗で、でもその綺麗な月が今の俺の心には深く染みた。
「漫画かよ……少女漫画かよ……」
「何、俺ら恋始まっちゃう系?」
「死んでも、お断りします」
「待って、俺振られるの? 告白してないのに、振られるの?」
「うるさいです。黙ってください。しーっ!」
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