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今度は倉敷が人差し指を口に当て、俺を睨むと、俺は溜息を漏らす。
世界は狭い。それを今日俺は学んだ。深く学んだ。
「お前、部屋は?」
「……203」
「は!? 隣人かよ……引っ越しの挨拶ぐらい来いよ。蕎麦ぐらい、持ってこいや若者」
「行ったけど、いなかったんですよ!」
俺たちは階段を上りながら、自分たちの家のドアの前まで来ると鍵穴に鍵を差し込む。そして同時に溜息を吐くと、お互いの顔を見合わせた。タイミングが良いのか、悪いのか。
「これ、他言無用な。しーっだからな。言ったら内申下げる」
「うわー、最低です。ていうか、しーっって言い方。誰にも言いませんよ。その代わり、先生もですからね? 言ったら、普通に三浦って表でも呼びますよ」
「もう言ってるけどね……」
俺は項垂れると、開いた鍵穴から鍵を抜き、ドアノブを回す。本当になんてこった。狭すぎだろ、世界。夢の国でも、”It’s a small world”って言ってるけど、それでもこれは狭すぎる。
「おやすみなさい」
俺はドアを開けた瞬間、そのまま一瞬固まると、隣でバタンッというドアが閉まる音が聞こえる。それから、ふっと笑みが零れた。
「おやすみ、倉敷」
俺は部屋の中に入ると、ドアを閉める。
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