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 俺は空いている片手で顔を覆うと、また溜息を吐く。無駄に晴れ渡っている夜空に、俺は少し腹立たしく思いながら、心がどんどん沈んでいく。この夜空を、この暗闇を、誰もが見ていると思うと、本当にと、信じたくなくても思ってしまう。結局、俺たち人間は、ということだろう。 「月、綺麗ですね」 「何、?」 「黙れ、」 「三浦先生な、三浦先生」  裏で生徒が俺のことを、三浦と先生を付けずに苗字で呼んでいたのは知っていたが、まさか倉敷までそう呼んでいたと思うと、胸が痛い。舐められることには、もう慣れたけど、それでも優等性にまで舐められていると思うと、テンションが下がった。 「俺、何で教師になったんだろ……」 「あ、ここです」 「ん?」  彼女が止まると、自分の家を指さす。それから、俺は数回瞬きをすると、もう一度「ん?」と笑顔で言った。 「これ、お前ん家?」 「はい。ここの2階です」 「……は? え、何? 俺、?」 「は?」
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