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学校に通うようになってもぼくは誰とも口をきかなかった。
そもそもあまり言葉を知らないのだ。
みんなが当たり前のようにしていることのなにひとつ、わからなかった。
じっとうつむき時間が過ぎていくのを待つだけの日々。
それでも家にいるより賑やかなその場所がぼくは好きだった。
だけど何も話せないぼくを気持ち悪がって、そのうち誰も近寄らなくなってしまった。
「可愛い顔をしてるんだから、笑ってみせて」
担任だという女の人がぼくの前でにーっと口を上げて見せた。
「ほら、こんな風に」
「……」
懸命に同じようにわらったつもりなのに、かたまってしまったのかぼくの顔はびくとも動かない。
「お名前言える?」
グっと喉に力を入れて声を出そうと思っても、出し方を忘れてしまったかのようにヒクっと震えるだけだった。
口を開けては閉めるぼくにそのうち呆れたのだろう。
あまりかまってもくれなくなった。
なんでこんな風になったんだろう。
ぼくの何がいけなかったんだろう。
みんなと一緒になりたかった。
同じようにニコっとして楽しそうに話してふざけて仲良くなって。
だけどその術が分からない。
じっとするだけのぼくはいつでもひとりぼっちだった。
そして誰もぼくの声を知らないまま大人になった。
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