あいを、しる

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 体は大きくなったけれど、変わらず誰とも話すこともなく「ありがとう」がわからないままだった。  テレビや本では「ありがとう」と言われた人はとてもいい気持になるという。ぼくは言われたことがないから本当なのかわからない。  でもいい気持ちになってみたいから、聞いてみたいなとは思う。  たった5文字の魔法。  ぼくは「ありがとう」に憧れている。  表情筋がないと言われたぼくの顔は、目と眉毛と鼻と口と頬があって、ちょっとだけひげも生えている。  多分他の人と違いはないと思うのに、なんでぼくは笑うということができないんだろう。  みんながニコっとしている顔を見ていると、すごくいいなと思うのに。  ぼくだって誰かをいい気持ちにさせてあげたいし、笑ってみたいと思う。でもそれってどうやってやればいいの?  見たままに頬を上げてみたけれど変な顔になっただけ。  口をあげたって、目を細めたって、不細工な顔が鏡の中にあってこれじゃやっぱり気持ち悪い奴って言われるだろう。 「ありがとう」へのハードルはものすごく高い。  テーブルの上の封筒のお札は、いつしか通帳という数字へと変わっていった。  お父さんやお母さんに教えてもらったら笑うことも「ありがとう」を言うこともできたのかもしれない。  でももしかしたらあの人たちも「ありがとう」を知らないのかもしれない。だからぼくに教えてくれなかったのだ、きっと。    ぼくは長いこと「ありがとう」について考えてきたし、頭の中では何千回も何万回もその言葉を唱えてきた。  人生が変わるというなら、どうかぼくを普通の人たちと同じにしてほしい。  
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