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「ありがとうございます」
嬉しそうに笑いながら彼女がそう口にした。
「取れなくてどうしようかと困っていたんですよね。本当に嬉しい、ありがとう」
ありがとう。
そう言ったのか。しかも2度。
見ず知らずのぼくに向かって。
黙ったままのぼくに彼女はびっくりしたように大きな瞳をさらに見開いた。彼女の瞳の中に情けない顔のぼくがいた。
「あの、」
彼女は慌てたようにバッグからハンカチを取り出した。そしてそれをぼくへと渡す。
「大丈夫ですか……?」
なんでハンカチと思ったけれど床に落ちた水滴が涙だと知って、ぼくこそ驚いた。
知らないうちにボロボロと大粒の涙を流して泣いていた。
「大丈夫、です……」
引きつったような声が出た。
そうか、ぼくの声はこんな音だったのか。
彼女は本を小脇に抱えるとそっとぼくの背中をさすった。
小さな体が寄り添って温かなてのひらがゆっくりと動く。触れた場所から彼女の体温が伝わってきて、ぼく以外の存在を初めて感じた。
「どっか苦しいですか?」
心配そうな声に、こくんと頷いた。
苦しい。
胸がいっぱいで張り裂けそうだ。
何かが体の奥からあふれてきてそれをどう止めていいのかわからない。
「苦しい」
口に出すとさらに涙は止まらなくなった。
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