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本屋のすみにあったベンチに並んで腰をかけると、彼女は僕が落ち着くまでずっと背中をさすってくれていた。
何も言わず、黙ったまま。
沈黙しかない生活だったけれどその静かさとは全然違った。
隣にいてくれる人がいる心安さを、ぼくは初めて知った。
泣きはらした目がヒリヒリとして熱い。
ズっと音を立てて鼻をすすると、ぼくはわけもわからないおかしさに襲われた。
嬉しい。
幸せ。
温かい。
ずっと欲しかったものが、今ここにある。
自然に笑いがこみあげてきた。
頬がグっと上がって、口元が柔らかな弧を描く。
「ありがとう」
見ず知らずのぼくのそばにいてくれて。
何も言わず、背中をさすってくれて。
ああ。これが「ありがとう」なんだ。
なんて優しい言葉。
なんてぬくもりに満ちた言葉。
ずっと憧れてきた「ありがとう」がぼくのそばにある。
「あ、ありがとう」
もう一度振り絞るように音に出したら今度は止まらなくなってしまった。
「ありがとうありがとうありがとうありがとう……っ」
今までの想いがあふれるようにただありがとうと言い続けるぼくを彼女はひたすら撫でてくれている。
「ありがとう、ねえ……ありがとうありがとう」
なんて心が満ちているんだろう。
キラキラと輝くように、ギュっとしめつけられるように痛い。
今まで味わったことのない気持ちがあふれている。
そう思ったらまた泣けてきて、だけど彼女は気持ち悪がることもなく隣にい続けてくれた。
「そんな時もありますね」
そう天使のように微笑んで。
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