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ソラは恭一がバイトを終え、店から出てくるのを待ち構えている。
緊張の面持ちだ。
「...来た」
「お疲れ様でーす、あれ?君は」
「特徴のないソラです」
「どうしたの?」
「...じゃんけんに負けました」
恭一が首を傾げていると続けた。
「明日の土曜日、みんなでケーキ焼きます、食べに来てください。て伝えろ、て2人に言われました」
恭一が笑う。
「もう遅いし、送るよ」
「...ありがとうございます」
恭一は自転車を押しながら、歩道の反対側をソラを守るように歩いた。
「もうすぐ着きます、ここです」
「この一軒家?」
「はい。10時で大丈夫ですか。て聞いてこい、て言われました」
「大丈夫だよ、10時だね」
「はい」
ソラは自転車に乗る恭一の後ろ姿を見送り、部屋に戻った。
「どうだったソラ」
パタン、ソラが座り込んだ。
「き、緊張した...」
「大丈夫か、ソラ」
リクが駆け寄り背中を撫でてやった。
3つ子の長男のリクは実は一番、兄弟を思いやるところがある。
特に末っ子のソラはあがり症で3人の中でも病弱だ。
「だ、大丈夫...で、ケーキは」
「スポンジは出来たからあとはクリームだけ」
カイがベッドに座ったまま、ソラに説明した。
朝から3人は大忙しだ。
ケーキのデコレーションが済み、あとは恭一が来るのみ。
父はゴルフ、母はパートでいない。
(ピンポーン)
チャイムの音にリクとカイは駆け寄った。
「恭一さん!いらっしゃい!」
満面の笑みの2人は見事にハモった。
「こんにちは、これ、お土産。大した物じゃないけど」
「ありがとうございます」
リクはビニール袋を受け取った。
「どうぞ上がってください」
カイがスリッパを差し出す。
ソラはキッチンで紅茶をいれていた。
リビングに恭一は通され、目を見開いた。
「これ、君たちが作ったの?」
「ケーキが好きだと聞いてたので、リクから」
カイがホールケーキを切り分ける。
紅茶をトレイに運ぶソラがどうも危なっかしい。
「貸せよ。ふらふらして危ない」
リクがトレイをソラから奪った。
「ありがとう...ごめん」
ケーキを前に同じ顔をした3人に囲まれて恭一は、
「イリュージョンみたいだね」
「なんですか?」
首を傾げる3人にいや、とケーキにフォークを差し入れ、頬張った。
「美味しい」
「よかった」
3人が綻んだ。
「そうだ、お礼に、これ」
恭一は映画の招待券を3人に手渡した。
「えっ、お土産まで頂いたのに、なんだか申し訳ないです」
リクが言うと、
「お客さんから頂いたんだ。よかったら見に行ってよ。期日も近いからなるべく急いでね」
「はい、ありがとうございます」
またもや3人はハモった。
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