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グレーのパーカーにデニム姿の恭一がバイトを終えて自動ドアから出てきた。
「お疲れ様でーす」
「あ、あのっ」
リクが声を掛けた。
3人に気づき、恭一が固まった。
じゃんけんで勝った、リクの番からだ。
「これ...」
「ちょっと待って」
ソラが制止した。
「きょ、今日、バレンタインなのでみんなそれぞれ、お菓子作りました!」
「なんでお前が言う、ソラ」
と、カイ。
「みんな真剣に作りました。僕はお菓子作りが下手くそで、リクとカイが頑張って作りました!2人のチョコ食べてあげてください」
人見知りなソラが息を切らし、どもりながら口走る。顔は真っ赤だ。
「そ、そうなんだ、ありがとう」
ソラの思いがけないセリフにリクとカイが可愛いパッケージの箱を恭一に差し出した。
「受け取ってください!」
しばらく恭一は考えたようだが、両手を使い、2人の箱を同時に受け取った。
「ありがとう」
「ソラは?」
リクが聞くと、
「僕はいいの」
後ろ手に箱を隠した。
「駄目だよ。お前が一番、頑張ったんだから」
リクはソラから箱を奪い、恭一に渡した。
帰宅するとしばらくして、はい、とソラが2人に箱を渡した。
どうやら、リクとカイの分も用意していたようだ。
「美味しくないかもだけど...」
「溶かして固めただけだろ?」
カイが優しい笑顔を浮かべ、
「実は俺も」
と、2人に箱を手渡した。チョコチップの入ったカップケーキだ。
「そうだ、実は俺も」
偶然を装ったようにリクも2人に生チョコの入った箱を手渡した。
「ぼ、僕、飲み物、いれてくる!コーヒー?紅茶?ジュース?」
またもや、真っ赤な顔でソラが立ち上がる。
さぞかし嬉しかったんだろう、少々、興奮気味にも見える。
「お前に運ばせたら危ないから座ってな」
リクが部屋を出て、紅茶をいれた3つのティーカップを運んできた。
3人で仲良く、リクの生チョコ、カイのカップケーキ、ソラの小さなハート型の冷やして固めただけのチョコを食べながら紅茶を飲んだ。
「美味しい」
ソラが言うと、
「お前のも美味しいよ。市販の味がする」
リクとカイが無邪気に笑った。
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