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一人暮らしのアパートの一室で、恭一は腕を組み、なにやら真剣な面持ちだ。
目の前の丸いテーブルの上にはピンク、水色、チェック柄のラッピングされた箱が並んでいる。
「...なんで、俺なんだろう」
もっともだ。
恭一は大学に入り、2年、19歳。
今までに貰ったチョコは母と姉、先輩後輩の女子や女の友人。
いわゆる義理チョコばかりだったのだ。
高校生の頃に一度だけ、放課後に呼び出され、本命のチョコを渡され告白された事があるが、友人としか思えず、断った事はある。
彼女はいたことはあるが、かなりズボラな性格な女だった為、チョコは貰えなかった。
「とりあえず、開けてみよう」
開けると嗅ぐわしい香りが部屋に充満した。
「...美味いな」
3人の顔が浮かんだ。
特になぜかソラの顔が。
みんな同じ可愛らしい顔なのに、真剣そうに、どもりながら兄弟たちのチョコを薦める必死なソラの顔が浮かんだ。
「...義理、なんだろうか」
カップケーキをもぐもぐしながら、恭一が呟いた。
「おはようございまーす」
「おはよう、古賀くん」
バイト先に向かい制服に着替えると店長が挨拶を返してきた。
接客していない間、かなり恭一はぼんやりしている。
「どうした?最近、感じが違うね」
同じバイト仲間の涼介がカウンターの中で話し掛けてきた。
「悩み?」
「悩み、て訳でもない、のかな」
「なんだそりゃ」
自然と恭一は店内の自動ドアを見た。
「今日は来ないのかな」
恭一は3人を待っているのか否か。
音を立てること無く、自動ドアが開き、3人が入ってきた。
「こんにちは。恭一さん」
ソラは無言な眼差し、リクとカイは元気よく挨拶。
「こんにちは...」
恭一は戸惑いながらも笑顔を向けた。
無言なままのソラの視線が痛い。
「俺たちのお菓子、どうでした?」
リクが尋ねると、恭一は、
「美味しかったよ」
これは素直な気持ちだ。とても美味かった。
「どれが一番、美味しかったですか?」
カイが笑顔で尋ねると、
「3つとも美味しかったよ」
カイは口を膨らませた。
「それじゃ答えになりません」
「答え?」
「はっきり言います。僕たちの中で一番、誰がタイプですか?」
「タ、タイプ?」
恭一は同じ顔をした3人を見比べた。
「恭一さんが好きなんです。僕たち」
カイが凛とした表情と声で告げた。
「え、えっと...」
恭一はとても困惑しているようだ。
(3人ともとても色白で華奢で、顔もそこら辺の女より全然可愛い...)
恭一は戸惑っているようだ。
(性格も可愛いし、それに.....)
つい、3人のピンク色で、可愛く色気もある唇を見比べた。
不純な事を考え、恭一は嘆かわしい!と心の声でかき消し、頭を横にぶんぶん振った。
「やあ、3つ子ちゃん」
少し離れたレジで接客をしていた同僚の涼介が3人に話しかけた。
「こんにちは」
「こんにちは。相変わらず、3人は可愛いねえ」
涼介が笑顔で言うと、3人は同時に、
「そんな事ないです」
と、答えた。
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