Black Angel

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1kの狭い部屋、ロックバンド、Black Angel でボーカルを務める、ユウと、ギタリスト、ダイチは共に作曲活動している。 「あー、そこ、ちょいキー変えて」 ユウはたまに鼻歌を交えながらダイチにアレンジを求める。 「こうか?」 「うん、いいかも」 ユウがタバコを咥えジッポで火をつける。 「来週までに間に合わせないとな」 「だな、対バン、Doubtだろ?客、持ってかれる」 Doubtとは、ユウとダイチ、ベースのコウ、ドラムのサトルが互いにライバル視している同じくロックバンドだ。 ギターを床に立て掛けるとダイチは上向きに寝転びユウの膝に頭を置いた。 「俺にもくれよ」 ユウは吸っていたタバコをダイチの口に運んだ。 指でタバコを挟み、煙を吐き出すと、ユウに返した。 何度もそうして互いにタバコを吸い、ユウは体を折り曲げると、ダイチの唇に口付けた。 2人が交際していることは他のメンバーは知らない。 家賃を浮かせるための同居、はデタラメ。 本当は同棲中だ。 わざわざ教える必要もないと思ったから。 「風呂は?」 「溜めてあるよ」 2人は一緒に浴室に向かい服を脱ぎ、体を洗う。 2人が出会ったのはダイチがライブハウスの入口に貼っていたメンバー募集の貼り紙がきっかけ。 ボーカルが抜けて、Black Angel は活動休止していた。2年前に2人は面接で出会い、惹かれ合った。 互いのルックス、音、声、感性、全てにおいて。ダイチはユウの喋るとハスキーだが迫力あるシャウトだったり語りかけるような歌声にもかなり、惹かれた。 2人の左肩の下には互いの名前のアルファベットが刻まれている。 ユウの肩にはD、ダイチの肩にはY。 「ユウ、腹減った、なんか作ってよ」 「今から?疲れたんだけど、何時だろ」 「さあな、10時くらいじゃね」 「またテキトーなこと言って」 「悪いか」 狭い浴槽に2人は浸かり、抱き合い、笑みを浮かべる。 「だったらお前を食べるかな」 「どうせ、後でダイチに食われるのわかってるっての」 ダイチがユウの黒く艶やかで少し長めの前髪を撫でたあと、後頭部を抱いて深くキスをする。 ユウもいつも通り、舌を絡ませる。 アマチュアのバンドはプロになるまで食ってはいけない。 ユウはダイチには内緒にしている事がある。 ダイチには運送業のバイト、と嘯いているが実際は売り専のバイトだ。主にウケ。 知られたらタダじゃ済まない事を覚悟しているが、働き始めてもう1年、ダイチには気付かれていない。 もちろん、どちらが重要か、と説いたら、バンド活動だが。
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