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ユウとダイチは個室付きの居酒屋に来た。
ひとしきり食べ物とビールを頼んだ。
乾杯はしなかった。
ユウはビールのジョッキ片手にずっと気になっていたことを聞いた。
「うちの店が始めてじゃない、て本当?」
「ああ。こっちのが給料いいなあ、てネット見てたらさ」
ダイチは突き出しを箸で摘んでいる。
「前の店、て...いつから?」
ユウは自分と別れたからこのバイトを選んだんだろう、と思っていた。
「3年半くらい前かな」
ユウは耳を疑った。
「そ、それって、俺たち、出会ったのは...」
「実を言うとユウより先に売りやってた。バンド、て金かかるしさ、ゲイだしいいか、てそんな感じ」
「...俺が働いてること知ってあんなに怒ったのに」
「だよな。矛盾してるよな」
ダイチはそう言うとタバコを咥え、ジッポで火を付けた。
ダイチの誕生日にプレゼントした同じシルバーのジッポだ。
クロスのデザインがダイチが気に入っていたのを知り、プレゼントし、自分用にも購入した。ユウも未だに愛用している。
「うちの店を選んだのは...給料面だけで?」
「ああ。お前いたから面食らったよ。他店は一部しか知らないし」
「そうか...だから俺が売りしてんの知ったのか」
「店まではわからなかったけどな、たまたま仕事で移動してたらお前をあの街で見かけて。なんか勘、ていうかな、まずそれで気がついた」
そう言うと、ダイチは長い指先に挟まれたタバコの煙を目で追った。
「お互い様だったのにな。お前だけ悪者にした。今更だけど、ごめん」
「全然、違うじゃん」
「なにが?」
テーブルを挟んだ2人の冷静な目が見つめ合う。
「ダイチはバンドのために、でも俺は...」
「お前の言う通りだよ、いつまでチャラい夢見てんだよ、て。でもさ、諦めきれない」
うん、とユウは頷き、ジョッキに口付ける。
「聞いたよ。Black Angel 。今、いい感じらしいじゃん」
「...まあな。なあ、ユウ」
「なに」
「戻ってこないか?Black Angel」
「やだよ、軌道に乗ってるとこを邪魔したくないじゃん」
「関係ないよ」
「あるよ」
強い口調でユウが言う。
「戻らないよ、もう、バンドはしない」
「...そうか」
居酒屋を出た2人だったがまだ深夜だ。
「どうしようか...給料」
「明日、貰いいけばいんじゃね?」
ダイチの一言。
「そうだね、そうしよっか」
「帰るのか?もう」
「....」
「どっか飲み行かない?」
かつて大好きだった、運命の人、とまで思っていた相手に首を横に振れないユウがいた。
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