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1カ月後のライブまでの間、ユウとダイチは売り専で何度か顔を合わせるとぎこちなくだが、挨拶するようになった。
たわいない話しも少し挟む事もあった。
そうしてライブ当日の土曜日の夜。
ユウは黒のパーカーにダメージジーンズといったいつもの出で立ちで、一番後ろの壁に寄りかかりステージを眺めた。
前座から見ている為、トリのBlack Angel まで、まだまだある。
ユウは1ドリンクで頼んでいたビールをたまに飲みながら、ステージ上のバンドの演奏を表情なく眺めていた。
「ユウじゃね!?久しぶり!」
かつて、一緒にステージにいた、Black Angelのドラムのサトルだった。
「久しぶり」
ユウが微笑んだ。
「今、なにやってんの?何処かのバンドいんの?」
嬉しそうにサトルが話しかける。
「何処にも所属してないよ」
「マヂで、勿体ねえ」
「んなことねーよ」
しばらくするとベースのコウがやって来た。後ろにかつての恋人でもあるギターのダイチもいる。
「なんだよ、ユウじゃん、何やってんだよ」
「何ってライブ見に来たに決まってんだろ」
そんなやり取りをしていたら、ユウが抜けて入った新しいボーカルのショウもやって来た。
「はじめまして」
互いに挨拶した。
ショウはBlack Angel のファンだったらしく、ユウを目の前にして、少し緊張気味だ。
メンバー達はそれぞれ、友人やら知り合いに遭遇し笑顔で会話する。
ダイチだけがユウの隣で一緒にビールを飲んで暫く、互いに無言でステージを眺めた。
4人がフロアから消えた。
「またな、ユウ」
「ああ」
笑顔でこれからステージに立つメンバーをユウは見送った。
ふと、ユウは真横に人が立つ気配を感じた。
見るとヒカルだった。
「メンバーだったんだってね」
「ま、まあ、昔ね」
「俺さ、ダイチに振られたんだ」
ユウとダイチがかつては恋人だと知らないヒカルが話し始めた。
「好きな人がいるっぽい。ダイチは言わなかったけどさ」
「そ、そうなんだ」
ヒカルがクイ、と透明の紙コップに入ったカクテルを飲んだ。
「まあ、負けないけどね、どこの誰か知らないけど」
ユウはダイチに誰か好きな人がいるんだ....
と、少しショックを受けた。
だが、ヒカルと別れた、と聞き、嬉しくも思う浅ましい自分もいた。
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