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そして、マネージャーから、まさかの報告がメンバーに伝えられた。
全国放送のゴールデンの時間帯に放映される生放送の音楽番組の出演の打診をしていたらしいが、通ったというのだ。
「ど、どうしよう...」
今にも震え出しそうなユウに、
「なに、ビビってんだよ。て、俺も人の事、言えないけど」
メンバーのサトルが苦笑した。
そして、生放送、当日。
雛壇の一番後方に、ユウとダイチが並び、その両側にコウとサトルが座る。
ローカル番組には何度か出演したが、広さもスタッフの数も桁が違う。見下ろすと、見覚えのあるアイドルやアーティストがひしめき合い座っている。
まるで別世界に迷い込んだかのようだ、とユウはガチガチに緊張していた。
元々、表情が乏しいユウではあるが、隣のダイチはユウのあまりの緊張する姿に思わず微笑んだ。
「手、貸せよ」
「...手?」
なんだろう、と膝の上で固く握り締めていた手を差し出した。
手のひらにどうやら、人を三回書き、飲み込んで緊張を解す、おまじないだとユウはすぐに気がついた。
「よし、飲み込め、ユウ」
「...飲み込めないよ」
「なんで」
「だって、入る、て書いたじゃん」
ダイチはわざとではないが、人ではなく、入を三回、ユウの手のひらに人差し指で書いていた。
「えっ、マジ」
「うん」
目を合わせるなり、ユウは吹き出し、ダイチも一緒に顔を見合わせ、笑った。
すぐにBlack Angel の出番が来た。
演奏前、MCに質問され、応えるのはほぼ、ダイチだ。
ユウはMCから突然、話しを振られ、
「すみません、人見知りなんです」
ボソッと照れ笑いながら呟くユウに、スタジオ中が爆笑の渦に包まれた。
その後の演奏も抜かりなく、ユウも静と動を感じさせる歌声で魅了した。
ダイチの人を入と間違えたミスのお陰で、ユウの緊張が解れただけでなく、雛壇の後方で仲良く見つめ合い笑い合うユウとダイチの微笑ましい姿に、図らずも腐女子たちが胸きゅんし、新たなファン層が生まれた事を、2人は知らない。
「ああっ!ユウくんの笑顔、可愛かったー!」
「ダイチくんの笑顔も負けて無かったよー!」
「やっぱ、ユウくん受け?」
「いや、ダイチくん受けもアリじゃない!?」
番組を見た翌日の各学校では腐女子たちが大盛り上がりだ。
「お前ら、下世話すぎ。ユウとダイチ、勝手にお前らのお花畑の妄想の餌食にされて、マジ、可哀想」
「曲、聴いてやれよ、ったく。てか、ユウの声、いいよなあ」
「ちゃんと聴いてるし!」
女子の一人が睨み上げた。
「俺、ダイチのギター、好きだわー。あー、俺もダイチみたいな髪色にしてー」
男子生徒たちはBlack Angel に影響され、コピバンを始めた者もいる。
男子生徒の腐女子へのフォローは有難いが、二人は変わらず、シングルサイズのベッドで一糸まとわぬ姿で求め合った。
「好きだよ、ダイチ」
「俺も、ユウ」
二人は互いの後頭部を優しく抱き、甘い口付けを交わした。
ダイチに振られたヒカルも、リビングに正座し、緊張しながら、かつての彼氏、ダイチがギターを務める、Black Angel の出番を待っていた。
MCと話す、ダイチと隣に座るユウの姿。
遠い存在になったと感じたが、不思議と嫌な思いは無かった。
「仲良いんだから、全く」
正座から脚を崩し、膝を抱え、画面を真っ直ぐに見据える。
何を話そうか?と、声に出さなくてもたまに見つめ合い、瞳だけで会話しているかのような二人に思わずヒカルの頬も綻んだ。
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