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ダイチと別れ、ユウは1度、勤めている売り専のバイトを辞めた。しかし、まるで足首に楔を巻かれたかのように、暫くしたら出戻りし、勤務が再開した。
1度知ったら抜け出せない決して甘くはない蜜。堕ちていくだけ堕ちていく。
半年後、ユウは新しく借りたマンションで同じ売り専仲間、ハヤトと暮らしていた。
といってもハヤトが勝手に転がり込んで来ただけだ。
体の関係もあるが、ユウにとっては友人とも恋人ともセフレとも思ってはいない。
ダイチとの時の様にはいかない。
当時はシングルのベッドでくっ付いているのが好きなユウだったが、今ではダブルベッドで、自分から抱きついて寝たりはしない。
「明日、仕事、何時から」
後ろからユウよりは逞しい腕に抱かれて聞かれ、
「11時から。予約入ってるから」
バンドを辞めたユウはすっかりミヤビとして、売り専のボーイとして看板を背負っていた。ハヤトと共に人気のボーイだ。
「そっか、俺は予約、10時」
「聞いてないけど」
「相変わらず冷たいな、ユウは」
「ミヤビにしてくんない」
ユウが冷たくあしらってもハヤトは動じるどころか後ろからユウを抱き締めた腕の力が強くなる。
先に仕事を終えていたハヤトはユウが戻ってくるのを待機所で売り専仲間たちと喋りながら待った。
ハヤトはゲイビにも出演していて店ではNo1だ。
爽やかな笑顔が印象的な178センチ、ユウと同い年の22歳。スタイルも愛嬌も抜群にいい。
とは言っても、ここで働くみんなが面接で選び抜かれただけあって、芸能人やモデル顔負けなハイレベル。
ユウもダイチと別れてから出勤日数や時間を徐々に長くしていき、ランキングは上位の方ではある。
「お疲れ様です」
「ユウ、お疲れさん」
「なに、また待ってたの」
「腹減ったし、なんか食ってこうぜ」
待機している仲間たちの手前、嫌だ、とも言えず。
ユウはハヤトと共にマスターに挨拶。
「お疲れ様です」
「お疲れ様あ」
2人は近くのチェーン店の牛丼屋に向かおうとしていた。
「ユウ?」
懐かしい声に視線を送ると、半年前に別れたダイチだった。
「ダイチ、誰?」
ここはゲイの街、新宿二丁目だ。
3人よりは小柄な中性的な可愛らしい顔の青年がダイチの腕に腕を絡ませていても、何ら不思議ではなかった。
「久しぶりだな、ユウ。元気してたか?」
「元気だよ、ダイチは?」
懐かしい笑顔に胸が張り裂けそうになるのを堪えて、笑顔で取り繕った。
「俺も元気。お前が元気そうで何よりだよ」
2人は暫し見つめ合い、またな、と通り過ぎた。
(またな、ていつだよ...)
笑いそうな、泣きそうな複雑な心境だった。
半年経っても、半年間、仕事でたくさんの男に抱かれても、やっぱりダイチを忘れられてはいない自分に気付かされる。
「今の誰?」
ハヤトが尋ねた。
「昔の友達」
ユウはそう応えると更けた夜の街を並んで歩いた。
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