Chap,1_01. 花嫁に逃げられた男

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Chap,1_01. 花嫁に逃げられた男

 雨降って地固まる、という言葉があるが、結婚式で土砂降りの雨に見舞われるのはいかがなものか、と海堂朔(かいどうさく)は苦笑する。  本日の主役は控室で真っ白なタキシードを着せられ、困惑の表情を浮かべていた。 「それにしても……遅いな」  花嫁は準備がかかるものですから、と式場スタッフも口を揃えて説明してくれたが、それにしたって二時間近くひとり無機質な控室で待たされるのはどうかと思う。鏡の向こうの自分はすでに疲れ切った表情を見せていて、とてもじゃないが愛しい花嫁を手に入れる花婿のそれではない。  それもそのはず。  この結婚に朔の意志は関係ないのだ。  ――しょせんあなたなんて、金づるでしかないのよ。  国内シェアトップを誇る鋼材企業、K&Dの次期社長と目されている朔は今年、三十歳になる。父の明夫はまだバリバリの現役だが、すこしずつ業務を息子である朔とふたつ年下の弟の暁に引き継がせており、今回の結婚も会社の成長戦略の一環として政略的に仕組まれたものだったりする。
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