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一度しか顔を合わせたことのない令嬢といきなり結婚式を挙げる……会社のためとはいえ、やりすぎではないかとの声も上がっているが、それでも仕方がないと朔は諦めていた。朔が結婚して会社の地盤を強固なものにすれば、不毛な派閥争いは終わりを告げる。これ以上、弟に迷惑をかけるわけにもいかない。すきでもない女性と結婚して子を生ませることに嫌悪感はあるが……
学生時代にすべてを失った自分にとって、会社を引き継ぐことが贖罪になるのなら、それで構わないと、あたまの片隅で強引に納得させていた。
だが、打算で娶られる婚約者からすれば、朔の投げやりな態度は目に余るものでしかなかったのだろう。
ましてや女子大学を卒業したばかりのうら若きご令嬢からすれば、愛のない結婚など絶望しかない。
朔を避けるように結婚式の準備をすすめてきた彼女の気持ちも、わからないでもない。
――お互い様だな。俺は君を愛せない。
愛せない、というよりも愛さない、というほうが適切なのかもしれない。
白いタキシードを着た道化は哀しそうに鏡の向こうに佇んでいる。
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