140人が本棚に入れています
本棚に追加
she’s dead? (彼女は死んだ?)
浮気を問い詰めると、逆上した夫に殺された。
と、亜未は思っていた。
リビングの床に横たわった体は重く、包丁で何度も刺された腹部がどく、どく、どく、と拍動を刻みながら冷えてゆく。濁った血の海が広がり、闇が音もなく忍び寄る。
息絶える前、瞳に映った然の靴下は、結婚した三年前に一緒に買いに行ったもの。
同じ柄を何セットも揃えておけば探さなくていいよ、と亜未が提案したとき、然は名案だな、と目尻を下げて笑っていた。
わたし達はどこで間違えてしまったのだろう。
走馬灯のように記憶がめぐる。
もう新婚の時期はすぎていたが、休日には手を繋ぎ、一緒に買い物に出かけた。
気候が良いときは近所を散歩し、道端に名も無き花が開いているのを見ては顔を見合わせ、四季の変化を喜ぶ穏やかな夫婦関係を築いていたはずだった。
子供は居なかったが、互いにそろそろ欲しいね、と、話はしていた。
その平穏が、ゆるやかに侵食されはじめたのは、隣に更科紫が越して来てからだ。
最初のコメントを投稿しよう!