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ハンドルを離すと両手はぐっしょりと汗ばんでいた。履いていたジーンズに手を押しつけると手の跡が残った。スマホが震え、手に取る。
―――夕食一緒にどう?
と、然から。
レンタカーを返却し、電車に乗って、一息つき、亜未は返信をするため、再びスマホを手に持った。
先ほど撮った死体は現実だったのかと再確認するため、アプリを立ち上げる。変わり果てた無惨な自分。画面越しに死臭が漂ってくるようだった。
警察に突き出し、罪を償わせる、だけでは気が収まらない。司法に委ねられるレベルを超えていた。
然には、最大級の不幸を味合わせたい。
―――ご飯、作ろうか?
亜未はニタリと笑い、返信を送った。
食品を買い、マンションを見上げると然の部屋にはまだ電気がついていなかった。紫の部屋に戻り、スマホの写真を現像する。指紋がつかないようキッチンから掃除用のビニール手袋を身につけ、写真を封筒に入れる。鞄に忍ばせると、合鍵を使って然の部屋に入った。
キッチンで亜未として使っていたエプロンを身につけ、コロッケを作るためじゃがいもの皮を剥く。茹でて炒めた挽き肉と混ぜ合わせ、味を整えているところで、玄関が開く音がした。
「ただいま……、って、紫、料理、できたんだな」
「然くん、お疲れさま」
じゃがいもを崩そうとしていると、然が亜未の手元を見た。
「牛肉のコロッケ?」
「うん、そう。然くん、好きだよね?」
然の笑顔が崩れ、怪しむように眉根を寄せた。
「あれ、僕……、紫にその話した?」
「え? 忘れちゃった? 小さい頃におばあちゃんが手作りしてくれたのが美味しかったから、好きって言ってたじゃない」
明るく言うと、然は、そう、だったか、と歯切れの悪い返事だった。
「……言った、かな」
「言ってたよ」
「でも、その後、コロッケについたパン粉が合わなかったのか、体にぶつぶつが出来て、息が苦しくなったって話をしなかった? 病院に行って、小麦粉アレルギーだって初めて言われたって」
然は首を傾げた。
「……だから作ったのよ」
亜未は呟き、笑う。
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