unnatural (不自然な違和感)

7/7
前へ
/41ページ
次へ
 レンタカー屋の返事を聞き、然は山道に向かって車を走らせた。  舗装された道が途切れたところで、車から降り、木に囲まれた闇の中をスマホのライトで照らす。何度か訪れたこの場所はがあるとき以外は、足を踏み入れたことはなかった。  スマホのライトがオレンジのキャリーケースを映し出す。  土の色が変わっている部分を手で掘ると、ショベルの取手を見つけた。  一心不乱に掘り進めると先に蛆虫(うじむし)の住処になりかけている亜未の体が出てきた。場所は移動していない、と安心してさらに掘り進めると、白骨化した死体も出てきた。  安堵したような息をつき、然は前の妻であった骨に唾を吐く。  自分の言うことを聞かないから、こんな目に合うのだ、と、狂った正当性を誰に向けてでもなく主張する。  骨になった彼女は亜未と出会う前、つまり今から十年前に婚姻関係にあった。彼女は嫉妬深く、然が出張や飲み会で家を空けることに良い顔はせず、すべての動向を知っておきたい性格であった。そのため、息苦しさを感じ、詮索をやめて欲しいと訴えた然に拒否反応を示した。  ヒステリックを起こし、今まで溜まっていた不満を同時にぶちまけた彼女は、然の逆鱗にふれ、首を締められ、殺されてしまった。  然は何くわぬ顔で捜索願を警察に出し、妻は失踪者として扱われた。生死不明の配偶者は数年経てば離婚できると言う法律に(のっと)り、然は手順を踏んだ。  次の妻は、離婚が成立した翌日、店を訪れた客から選ぶ。そんな誰でも該当しうる適当な理由で亜未は然に目を付けられた。  腕で額をぬぐう。袖が汗を吸い、色が濃くなった。  現状を確認し、土を再び被せる。  周りの落ち葉をかき集め、掘った場所に移動させていると、葉っぱ以外の柔らかい感触が靴越しに伝わった。  足元を照らすと赤い布のようなものが落ちていた。  見覚えのあるそれを拾いあげると、しっとりとした手触り。  土と砂を払い、よくよく目を凝らすとメガネ拭きのようだった。  決定的な違和感に、然は今度こそ目を逸らすことができない。 ―――鳥目だから、夜になるとメガネがいるの。喉も乾燥するからマスクをつけて、メガネを掛けるとメガネが曇っちゃって。メガネ拭きはよくなくすのよね。  喋る訳ない、亜未の声が聞こえた気がした。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

140人が本棚に入れています
本棚に追加