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次の日、然に話したい事があると連絡をすると仕事終わりに会う事になった。亜未は紫の家に招き、コーヒーを入れた。部屋に豆の香ばしい匂いが広がり、帰りに買ったグルテンフリーの表記された茶菓子を置いた。
インターフォンが鳴り、然が映る。一度、家に帰ったようで、服はスーツから私服に着替えていた。
「いらっしゃい」
招き入れると、やや硬い表情で亜未の方を見ようとはしなかった。
「……然くん?」
首を傾げ、覗き込むと苦笑いを浮かべた。
「……然くん、どうしたの?」
「……困っている事がある」
落ち着いた声だった。
「何?」
「……靴下が、さ」
「靴下?」
亜未は聞き返しながら、リビングに案内した。然はダイニングチェアーに腰を掛け、キッチンに立つ亜未を見た。
「靴下が見つからないんだ」
コーヒーをマグカップに注ぎ、然の前に置く。カチリと陶器が触れる音が響く。
「靴下か……、困ったね」
グルテンフリーの菓子をカップの横に添え、これは大丈夫だから、と笑う。然は、視線を一瞬だけ落とし、すぐに顔をあげた。
「……紫ならどうする?」
「……心当たりの場所を探すかな。洗濯機の中とか、衣装ケースの中とか、他の洗濯物に紛れてないか、とか」
「それ以外の解決方法ってある?」
亜未は、なぁに、と笑う。
然は笑わなかった。
そして、亜未はゆっくりと、真顔になり、口を開いた。
「探さなくても、見つかる方法を聞いてる?」
「……そう、だ」
然が茶菓子ではなく、コーヒーを口に運んだのを確認して、亜未は口を開いた。
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