こっくりさん

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こっくりさん

dd6f5833-a165-4007-a300-45588fda1fde 『君には1人になってほしくない』  黄ばんだ紙に書かれた文を、そっと指でなぞる。これはから僕へのアドバイスかな。でも、僕にはうるさい相棒がいるから、1人にはなれないんだよね。 「にゃーん」 「ん、もう来たんだ」  体が半透明な黒猫が、僕を呼んだ。赤い表紙の古い本を戻し、学ランに袖を通す。参考書や弁当やらで、ずっしりと重いリュックを背負うと、黒猫が肩に飛び乗ってきた。 「行ってきます」  誰もいない家に、僕の声だけが響く。今日は両親の仕事が早かったから、僕1人なんだけど……やっぱり返事がないのは少し寂しいな。合鍵で、しっかりとドアを閉める。 「おっ、紅樹(こうき)おはよう!」  ニカッと笑って、友達……いや、相棒の橙真(とうま)が言った。 「おはよう。朝から元気だね」  いつものことだけど、と心の中で付け加える。橙真とは小学校から一緒で、家も近い。所謂(いわゆる)、幼馴染ってやつ。 「まぁな。でも今日は特に、だな」 「というと?」  そう訊くと、橙真はニヤッと笑う。風で彼の長い茶髪が揺れた。 「さっき、新しい依頼が入ったんだ。内容からして、今回は紅樹の仕事だぞ」 「あぁ、葉桜?」  小さな声で言うと、こくりと頷いた。僕の仕事ってことは、心霊系かな。  、多分学校で1番噂になっている、LIMEのアカウントだろう。色んな噂が出回ってると思うけど、まぁ想像は想像だし何でもいい。  葉桜は、橙真が作ったアカウントなんだ。僕らが持つ、他の人とは違う力……祓い人としての力を生かすために。誰かの為に使うために。 「依頼内容は、後で送っておくな。授業中にでも見ておいてくれ」 「授業中かは置いといて、昼休みまでには見ておくね」  そう言うと、隣から笑い声が聞こえた。橙真は、よく授業中にスマホをいじってるからね。僕は怒られたくないから、しないけど。たまにしかね。 「にしても、バレないもんだな。俺らが葉桜の中の人だって。始めてから2ヵ月は経ったろ?」 「そうだね。もうすぐ3ヵ月かな。これまでの依頼人の中で、口を滑らせた人もいないし……」  依頼人には正体を明かさないよう、言ってはいるんだけど……ここまでとはね。正体を隠しているのは、下手に騒がれたくないのと、からかわれたくないから。橙真も多分同じ。 「凄いよな。皆、俺らにビビってんのかな」 「かもね」  いたずらっぽく笑ってみせる。すると、ぶはっと橙真が吹き出した。表情がころころと変わって面白いな。  下駄箱で靴を履き替えて、2年1組の教室に入る。 「んじゃ、昼休みに屋上で」 「うん。ついでに色々考えておくよ」  そう言って、自分の席に座る。橙真とは同じクラスではあるけど、教室ではあまり話さないんだ。葉桜のこともあるけど、単純に趣味が違うからかな。  これは僕の勝手な考えだけど、仲が良いイコール趣味が同じだとは限らないと思う。まぁ、友情にも色々あるんだけどね。 「んにゃー」  肩に乗っていた黒猫、コトが背伸びをする。家を出てから、ずっと寝てたみたい。 「まだ時間はあるね」  リュックを漁っていると、スマホが震えた。橙真からLIMEかな。
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