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退屈な授業も終わり、ようやく昼休みになった。お弁当と本を持って屋上に来たが、まだ橙真の姿はない。誰もいない屋上で、文庫本を読んで待っていると、屋上のドアが開く音がした。
「もう来てたんだな。んで、何か分かったか?」
僕の隣に腰を下ろして、橙真が訊いてくる。
「んー、原因になりそうなことはあるけど、絞り込めなかったよ。でも、何かに取り憑かれているのは確実かな……」
「まぁ、情報も少ないしな。あ、依頼人が今日か明日にでも会いたいってさ」
お弁当箱の包みを開けながら、橙真が言った。そういう大事なことは、早く言ってほしいんだけど。
「そういえば、今回の依頼人の『Ren』って誰なの? 知ってる人?」
「ん、2組の女子だよ。松崎恋って人。LIMEの名前っていじってる奴が多いもんな」
あー、ローマ字にしてるんだ。僕は苗字をそのまま名前にしてるけど、いじってる人が多くて誰が誰なんだか。人の名前を覚えるのは苦手だし。
「で、いつ会う? 取り憑かれてるんなら、早い方がいいか?」
「そうだね……今日の17時とかどうかな。できれば、逢魔が時は避けたいんだけど、仕方ないかな」
逢魔が時、昼と夜の境目である夕方は、災いが起きやすいとか、妖怪が出てくるとかで避けたい時間なんだ。でも、早退するわけにもいかないし、学生である以上、仕方ないよね。せめて、テスト期間ならよかったのに。
「後で訊いてみるな。まぁ、大丈夫だろうけど。場所は、いつもの公園でいいか?」
「うん、いいよ」
卵焼きを頬張りながら考える。松崎恋ってどんな人なんだろうか。性格が少しでも分かれば、原因も絞れそうだけど。人脈の広い橙真も、松崎さんのことは知らないらしい。
「やっぱ、情報が少ないと辛いのか? 紅樹なら何でも祓えそうだけど」
「まーね。作戦が立てにくいからさ。相手が神様とかだったら祓えないよ」
そう言うと、橙真がぶはっと吹き出す。
「神様を祓えたら人間じゃねーよ。つか、神様じゃなかったら祓えるのかよ」
大抵の幽霊は祓えると思う……そんなに面白いこと言ったかな。橙真のツボはよく分からない。お弁当箱を片付けていると、足元で丸くなっていたコトが、肩に飛び乗ってきた。
「そんで、昼休みは何かすんの? 情報収集とか」
「どうしようか。取り敢えず、図書室に本を返しに行くけど」
情報収集って言っても、僕らが「葉桜」だと明かさずに色々訊くのはな……。変な噂が流れても困るし。難しい。
「相変わらず、本が好きだな。暇だし、俺もついて行ってもいい?」
「いいよ」
1度教室にお弁当箱を置きに戻って、そのまま図書室に向かう。僕の趣味は、本を読むこと。テスト期間や依頼がかなり多い時以外は、週に1冊のペースで読んでいると思う。
自分のお金で買いたいんだけど、他にも買うものがあったりして、お小遣いが足りないんだ。本を返却して、元の場所に戻そうとした時、気になる会話が耳に入った。
「松崎、今日も学校休んでるんだよね……」
「そ、そうなの? 私たちが、あんなことを相談したせいかな」
どうやら、1組と2組の女子が話しているようだ。
「だとしても、うちらは悪くないでしょ。罰が当たったんだよ。だって、あいつ……」
……あぁ、なるほど。そういうことか。
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