こっくりさん

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 リュックから『結』と書かれた、お(ふだ)を4枚取り出す。このお札を四角形の角のように貼ると、簡単に結界を作ることができるんだ。ちなみに、これは僕の手作りで僕の霊力を込めているんだよね。 「橙真、これを向こうの木の下に貼ってきてくれる?」 「おう。分かった」  お札は4枚貼ることで、効果が出るんだ。松崎さんが結界の中に入ってから、もう1枚貼れば結界ができるようにする。ひとまず、これで取り憑いた霊に逃げられることはないだろう。後は……。 「コト、霊力の補給をしてくれるかな」 「にゃあ」  小さく鳴いて、コトは僕の首筋に軽く噛みついた。  幽霊や神が持ち、人も少しだけ持っている不思議な力を、と呼ぶ。霊力は体内を巡っており、操ることができる人はごくわずか。僕は、幼い頃から霊力を操ることができ、霊力を体内で無限に作り出せるなんだとか。 「ん。ありがとう」  ただ、さっき言ったように、霊力は体内を巡っている。霊力が多すぎると、体が持たず壊れてしまう。そこで、僕は霊力のコントロールの為に、1匹の黒猫を取り憑かせた。それが、コトだ。  取り憑かせるというか、式にするって言った方が正しいのかもしれない。コトは僕の霊力を溜めて、使う時に補給してくれる。式だから、悪霊化する心配はないんだ。 「これで、準備は終わりか?」 「うん。後は待つだけ」  僕の気配が変わったことに気づいた橙真が、ニッと笑う。橙真は、霊力の変化に敏感なんだよね。そのせいか、幽霊に取り憑かれやすいんだけど。 「もうすぐ着くってさ」  スマホを見た橙真の声と、ほぼ同時に足音が聞こえてきた。 「あの、葉桜……さん?」  明るめの茶髪を高い所で結び、薄く化粧をした女子が僕らに訊いた。顔色は分かりにくいが、良くはなさそうだ。化粧で誤魔化しているのかも。 「あぁ。俺は1組の桜木(さくらぎ)橙真。最初に言った通り、俺らの正体は誰にも言うなよ?」  橙真の言葉に、松崎さんは首を縦に振った。彼女の周りから、あまり良くない気配を感じる。隠れているのか、姿はみえないけど。 「初めまして。同じく、1組の葉月(はづき)紅樹です」  頭を下げるのと同時に、お札を地面に落とす。少しいびつな四角形だけど、お札とお札の間に壁のようなものができるのを感じた。このまま祓ってしまいたい所なんだけど。 「祓う前に、1つ質問です。今の状況、幽霊に取り憑かれた理由に心当たりはないですか?」 「それは、LIMEでお話しましたよね」  彼女は、まだ気づいてないのか。そもそも、いじめたつもりはなかったって可能性もあるわけだし。いや、女子2人は気づいたんだよね……うん、これについては何も分からないな。 「なら、質問する相手を変えましょう」  体の中にある霊力を、喉に集める。いつもやっている方法だ。 「こっくりさん、こっくりさん、君は何故彼女に取り憑いたんですか?」  砂が軽く舞い上がり、松崎さんの背後から、黒いもやのようなものが現れた。もやは、徐々に狐の形に姿を変えていく。 『たのまれたから』  地面の砂に、棒で引っ掻いたような文字が浮かび上がった。この霊、結構強いな。突然浮かび上がった文字に、小さく悲鳴を上げる。橙真は文字と松崎さんを交互に見て、驚いたような苦いような、何とも言えない顔をしている。 「頼まれた、ね。それは、誰に?」  僕の予想は、多分当たっている。何だか、テストの答え合わせをしているような気分だ。さっきの文字は消え、新しく文字が浮かび上がる。それを見て、僕の頭の中の解答用紙に丸を付けた。
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