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結月は次第に食事を受けつけなくなった。
それだけでなく、夜はうなされるようになり、穂高が結月を抱きしめ、やっと落ち着いて眠る。
資格を持った心理カウンセラーにも結月は心を閉ざした。
「結月、ちゃんと食べないと」
穂高に促される。
「わかってます、わかってはいるんですが...」
「穂高、いるー?」
威勢のいい史哉の声がした。
史哉は未だ、別れを告げられた穂高を諦めきれなかった。
史哉の目に止まったのは庭のベンチに座る、結月の姿だった。
史哉にとっては厄介者に過ぎない、素通りして、そのまま、自宅へと入ろうと思ったが踵を返した。
気がつけば、結月の隣に、よいしょ、と座り、結月は史哉を見上げた。
「...なに?泣いてんの?」
結月は口を閉ざした。
「穂高の前で泣けば?穂高が慰めてくれるんじゃない」
皮肉を込めた。
「...そんな。穂高先生に迷惑ばかりかけたくない」
「...わかってんじゃん」
ライバルとしか思っていなかった結月を不憫だと、この日、初めて史哉は思った。
気がつけば、結月の小さな肩を抱いた。
「...泣きたいなら泣けば?」
「僕のせいで...史哉さんにも迷惑かかってる...ごめんなさい」
「...別に、お前のせいばかりじゃないよ」
穂高が単に付き合いが長く、積極的にアプローチする自分を拒めずに交際していたことは本当は史哉も気がついていた。
ただ、認めたくなかった、それでも穂高が自分のものになればそれでいい、と思っていたから。
穂高のいない広い庭の一角で史哉は肩を貸し、史哉も物思いに耽った。
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