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「そいつに近付いたら嘘つきがうつるんじゃねぇの!?」
嫌悪と侮蔑と嘲笑と。……後は何だろう。
「何々、高校生にもなってかまってちゃんなの!?」
「イタすぎるんだけど!!」
「ていうかそんな嘘つくとかありえない!」
ちっぽけな正義感、だろうか。
嘘をつく悪人を正義の名の下に断罪する正義の味方。…………なるほど。言い得て妙だ。彼らからしたら私は立派な嘘つきで、正義の鉄槌を下すに相応しい悪人だろう。
あながち間違ってはいない。
三階にあるこの教室の窓に張り付いて、じっとこちらを見ている血だらけの女が見えないのだ。見えない彼らにとって、血だらけの女なんて存在しない。その存在しないものを認識してしまう私は、彼らからしたら妄言を吐き散らかす頭のおかしい異常者だ。平然と気味の悪い嘘をつく悪人だ。
そこは間違いない。
間違ってはいない。
だけど私には見えているのだ。
血だらけの女の姿も。耳障りな女の声も。血の臭いも。嫌でも認識してしまう。他の誰もが認識できなくても、私だけは否応なく認識させられる。
「黙ってないでなんか言えよ」
肩を押されて尻もちをついた。それを見たクラスメイト達が一斉に笑い出す。
……何か言え、なんて。随分酷い事を言う。反論しようものなら更に激しい罵倒を浴びせてくるだけだろう。それかまた嘘つきがまた嘘をついていると糾弾されて終わり。正義の鉄槌を嬉々として振り下ろしてくるだけじゃないか。
だから、私は口をつぐむ。胸を指す棘の様なものの痛みに耐えて。ただひたすら黙って、悪意が過ぎるのを待つのだ。
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