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『チょ ウだ い ちょ ダい』
満足したのか、各々の席に戻っていったクラスメイトを横目に自分の席に座る。
やっと解放されたというのに、今度は窓をすり抜けた血だらけの女が私の傍に寄って来た。
『ねェ チョう ダぁい かお ホシイ よコセ ヨこ せよぉおお』
何時もの様に気付かないふりをしてやり過ごそうとした瞬間。突然叫びだしたかと思えば私の腕を掴んできた。
ボロボロの伸びた爪が容赦なく私の腕に刺さって血がにじむ。
……まずい。まずいまずいまずい!!
がんがんと脳内で鳴り響く警鐘と恐怖で頭がおかしくなりそうだった。そんな中でわずかに残っていた冷静な部分が逃げろと叫ぶ。
「…………っ!!」
化け物の手を無理矢理払って。震える足を必死に動かして、死に物狂いで教室を飛び出す。
後ろが騒がしいけど、振り向く勇気も余裕もなかった。
廊下を全速力で走り。階段を二段飛ばしで駆け下り。走って、走って、走り続ける。
やっとたどり着いた、安全圏である図書室の扉に手をかけて。
「…………う、そ」
いつもは開いている扉に、何故か鍵がかかっていた。
「いやっ、何で……!?何で開かないの!?」
何度扉を開けようとしても大きな音を立てるだけ。開く気配は微塵もなかった。
『死』
脳裏をよぎったその文字に、胸を占めたのは恐怖ではなくて安堵だった。
…………あぁ、そうか。
迫りくる死を前にして、今初めて気が付いた。
死にたくない。怖い思いはしたくないと口にしながら、私は死にたかったのだ。
家族に疎まれ、クラスメイトに糾弾され。頼れる人もなく、化け物に怯える日々。
それを終わらせたかったのだ。
優しかったはずの両親を豹変させてしまったのも。最初は友好的だったクラスメイトをあんな風にさせてしまったのも。私が化け物なんかを認識してしまうせい。私が普通じゃないせいだから。
だから私が消えてしまえばいいと、心の何処かでずっとそう思っていたのだろう。
『かオぉ ヨこせぇえぇええ』
血だらけの化け物がすぐそばまで迫る。
この地獄から開放されるとおもうと、つい頬が緩んだ。そのまま、化け物に全てを委ねるために、図書館の扉を背に目を閉じる。
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