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直ぐに襲ってくるであろう痛みが来ない。
不思議に思って目を開ければ、そこに化け物はいなかった。
「大丈夫?」
いたのはこの学校で知らない人はいないであろう、王子様なんてあだ名がついている世渡徹先輩だった。
何故こんな所に先輩がいるのだろう。
いや、そんな事よりも。
さっと辺りを見渡してみても、あの化け物は何処にもいなかった。
まさか先輩が来たから?……いや、クラスメイト達がいる所で襲ってきたのだからそれはないだろう。
じゃあ何で?何でいなくなったの?何で私を殺してくれなかったの?
死ねるという希望を目の前で取り上げられて、途方もない絶望が身体を蝕む。
立っている事すらままならなくて、そのままずるずると冷たい床に座り込んだ。
「……これは酷いな」
私を見下ろす先輩がそんな意味のわからない事を言って私の右腕を掴んで、無理矢理立たせる。
化け物とは違う、温かさがあるそれが。あれだけ欲していた温もりが。今は気持ちが悪くて仕方がない。
「……っ、離してください!」
「お断りだね。離したら君、死んじゃうだろう?このまま死ぬのはもったいないよ。死ぬのならもっと面白い事をやってからじゃないと」
誰もが憧れる、温厚で優しい完璧な王子様からは想像できない言葉が飛び出してきて戸惑う。
「あぁそうそう。あの低級の霊は僕が殺しておいたから、もう君の前には現れないよ。自殺は諦めるんだね」
「……え、」
殺したとか、自殺だとか。突っ込みたいところはいっぱいあるけど、それよりも。
「…………先輩も、見えるんですか?」
情けないくらい震えた自分の声が鼓膜を揺らして、後悔した。また嘘だと言われたら。からかっていただけだと言われたら。きっともう、私には耐えられない。
「すみません何でもないです。忘れて下さ、」
「見えるよ。さっきの女の霊も、その女の顔面が潰れてるのも残念ながらはっきり見えちゃってるんだよね」
何て事のない風に、先輩はそう言って笑った。
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