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「まぁ、聞きたい事とか色々あるだろうけどさ。まずはそれ、ちゃんと手当てしないとだから保健室行こうか」
それ、と指さされたのは化け物に掴まれた時に出来た傷。今まで気付かなかったけれど、思ったより深かったらしい。肉が抉れて今なお流れ続けている血が、白いワイシャツを真っ赤に染めてしまっている。
その上来た道に視線を向ければ、私の血が点々と続いていた。……これは、さすがに不味い。もう手遅れかもしれないが、騒がれる前に片付けないと後が面倒臭い。
「掃除しないと」
「それは後。ていうかさ、結構抉られてるけど痛くないの?」
私の左腕を見ながら、痛々しそうな顔をする先輩に思わず笑ってしまう。
「痛くないですよ」
だってもう、慣れてしまったから。
胸を刺す痛みには、未だに慣れていないけれど。肉体的な痛みはあんまり感じなくなってしまったのだ。
「……そっか。でも手当てはしよう。取り敢えずここで簡単な止血だけしちゃうから、じっとしててね」
今度は悲しそうな顔をして、そんな事を言う。
物騒な事を言っていた人とはまるで別人だ。普段の完璧王子様な先輩と残虐さが垣間見えた先輩、そして今の先輩。果たしてどれが本物の世渡先輩なのだろう。
考えたって分かるわけない。一方的に先輩の事は知っていたとはいえ、まともに話すのは今日が初めてなのだから。
だけど、馬鹿みたいに考えてしまうのは多分。自分が血で汚れる事を厭わずに、こんな私にも丁寧に処置をしてくれている先輩を少なからず敵ではないと判断してしまっているからだろう。
もう誰かに気を許すのはやめたはずなのに。馬鹿で愚かな私はまた、同じ事を繰り返す。
後悔しても知らないぞと、訴える様に。胸に絡みつく棘がぎりぎりと痛みを与えてきた。
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