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「じゃあ改めて自己紹介ね。僕は世渡徹。たまに依頼とか受けて化け物殺しとかしてるよ」
「化け物、殺し……?」
「そ、今君を襲ってたやつとかを殺して回ってるわけ。まぁ、僕はどちらかと言えば運搬係で、大物を殺すのはもっぱら他の人だけどね」
情報の多さとあまりにも現実感のない話に頭が痛くなってきた。
「それで前々から目を付けていた君に今日声を掛けてみたんだ。君も身をもって知っていると思うけど、見える人間は貴重でね。しかも君はなかなか力が強いようだし、ぜひこっち側に来てほしいなって」
明るい声音に楽しそうに上がっている口角、柔らかく細められた目。誰が見ても好印象を持つであろう王子様の名に相応しい表情。
……だけど私は先輩のその表情に不信感しか抱けなかった。
今まで存在を否定された事こそあれ、認められた事なんてただの一度も無いのだ。それは仕方の無い事だけれど、だからこそ。甘い顔をする人間は簡単に信じられない。
「来て欲しいなんて、心にも無い事を言わないでもらえますか」
口から飛び出した声は自分でも驚くほど、温度のない低い声で。それにわざとらしく驚いた顔をしてみせた先輩に、更に不信感が募る。
「そんな悲しい事言わないで。僕は本当に君が欲し、」
「善人のフリした人間に散々騙されできたんですよこっちは。信じられるわけがないでしょう」
「…………そう、だよね。ごめん。あまり深く人と接した事がないから、こんなやり方でしか出来ないんだ。ってこんなのただの言い訳だね」
さっきまでの王子様みたいな完璧な笑顔じゃなくて、見覚えのある。どこか諦めとも悲しみとも取れる笑い方をする先輩に心が揺れた。
……この人は私をどうしたいのだろうか。
胸を焼くのは、確かな不安。
鏡を見ているかの様な先輩の姿に、自分の中の何かが変わってしまう。そんな不安があった。
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