嘘つきの本音

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「流石に今はそんな風に思いませんけどね。いくら私が彼らにとって嘘つきだったとしても、あそこまで攻撃される筋合いはありませんでしたし。今になって思うと、何であそこまで自罰的だったのか分かりません」 「彼らがただのクズってだけ。君の酷すぎるネガティブは異能の影響も少なからずあるだろうね」 異能。聞きなれない言葉に首を傾げる。 「化け物から身を守る為に開花した人間の特殊能力の事さ。僕が君達をここに移動させたのも僕の異能の力だし、その数珠も異能で作られてるんだよ」 「なるほど……?」 現実感のないファンタジーみたいな話だ。だけど私は教室から見知らぬ廃病院に移動しているし、化け物から認識されずにこうやって話している。信じるしかないだろう。 「詳しい話は帰ってからにしよう。こんな陰気な所早く出たいし。それに皆、君が来るのを楽しみにしてるからね。早く帰らないと怒られそうだ」 「友達ですか?」 「……友達って言うか、家族、かな。帰ったら紹介するから楽しみにしててよ」 柔らかく細められた目が、大切でしょうがないと言わんばかりで。素直に羨ましいと思う。 そんな思いが顔に出ていたのか、先輩が私の頭をぐしゃぐしゃと撫でて。そっと手を差し伸べてくる。 「君も今日から家族だよ」 先輩はまるで悪魔の様だ。甘い甘い誘惑で、そちら側へ誘おうとする悪魔。 その手を何の躊躇もなく掴めたなら、どれだけ幸せだろう。そう思うのに、裏切られるかもと言う恐怖が足をすくませる。 「クラスメイトを見殺しにする人間を家族にしていいんですか」 拭えない不安が、そんな言葉を口走らせた。 「それなら僕は立派な人殺しだね。何てったって彼らをここに連れてきた張本人だ」 「彼らが死んだ時、ざまあみろって思いました。真っ当な倫理観を持ち合わせていません」 「いいんじゃない?あれだけの事をやられたんだし。そもそも倫理観とか勝手に押し付けられても迷惑でしょ。僕達が見てきた地獄はさ、綺麗事なんかで片付けられるものじゃない」 仄暗い目が不安げな顔をした私を映す。 なるほど。何で先輩が私に声をかけたのか分かった気がする。やっぱり、先輩は私の鏡なのだ。先輩が私に目をつけたのも、私が先輩に心を揺らされたのも。私達が似ているからに違いない。 「そうですね。変な事聞いてすみません」 「気にしないで。急に味方面されても警戒するのは当たり前だしさ。他に聞きたい事はある?」 「大丈夫です」 「これですこしは安心出来た?」 微笑ましそうに見られて顔が熱くなる。 「……はい」 「じゃあ改めまして、こちら側へようこそ。歓迎するよ茨野あかね」 差し出された手を今度こそ取って、足を踏み出す。あんなに重かった身体が嘘みたいに軽くて、まるで羽が生えているみたいだった。
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