6時半のアラーム

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6時半のアラーム

   僕たちの朝は、それほど早くない。  龍さんのスマホには、毎朝6時半に目覚ましがかけられているけど、それは起きて支度を始める為じゃないってことを知ったのは、一緒に暮らし始めてすぐだった。  tosacafeの2階と3階は住居になっているのは前述の通り。その3階に、読書スペースがある。龍さんのお部屋と予備部屋の向かいには、大きな本棚とゆったりとしたソファが置いてある。龍さんは、仕事が始まる前の30分と、寝る前の30分、ここで本を読む。定休日はもっとたくさん読む。 「司は好きなことしてていよ」  って言われるから、座っている龍さんの膝に頭を乗せてソファーに寝転がる。そして、何をするでもなく龍さんの顔を見つめ続けるヤバイ奴になる。  はじめこそ 「ねぇ。そんなに見られたら恥ずかしいんだけど」  って言っていた龍さんも、最近は慣れてくれたみたいで、僕のことは放っておいてくれる。たまに髪の毛をくしゃっとかき混ぜられたり、手を握ってくれたりするのが嬉しい。誰にも邪魔されないで、龍さんの眼鏡姿を堪能できるなんて、本当、読書タイムは至福だよね。 「司。そろそろ朝ご飯にしようか」  本を閉じた龍さんが、時計を確認してそう言った。時刻は7時。こういうところ、几帳面だなぁって思う。 「まだ眠たいです」  そう言って龍さんの太腿の上で頭を左右に揺らすと 「嘘。さっきからずっと目ぱっちりじゃん」  って笑われた。……バレてる。そうだよ。本当は眠たいわけじゃなくて、もう少し龍さんにくっついていたいだけだもんね。 「ほーら、起きるよ」 「やです」 「困った子だなぁ、司は。じゃあ、抱きしめさせて」 「はいっ。それなら喜んで」  がばっと体を起こし、今度は龍さんの太腿に跨るように座って背中に腕を回す。やった。ハグ、ハグ。  龍さんの首元に頭をぐりぐりしていると 「眠たいなんて、やっぱ嘘じゃん」  と、笑われた。 「嘘じゃないけど、ほとんど嘘に近いです」 「嘘つきはお仕置きが必要だな」 「お仕置きはいらないので、キスしてください」  そう言って見つめると、龍さんはニヤリと口角を歪めた。 「やだ。絶対しない」  龍さんは僕のTシャツの中に手を忍ばせ、触れているのか触れていないのか、絶妙な力加減で体の線をなぞる。 「っ、……ん、なんか、それ、やだ」 「ふーん。じゃあ、続けるね」 「っちょ、っ、や、だっ」  首筋や耳に触れる舌先も、背中や胸に触れる指先も、くすぐられているみたいに頼りないのに、熱だけが確実に伝わってくる。キスしたくて顔を近づけると、スレスレのところで顔を逸らされた。 「っ、意地悪」 「人聞き悪いな。お仕置きだってば」 「んぅ、も、やだ。キス、したい」 「だめー」  腕を掴まれてソファの上に押し倒される。見下ろしている龍さんは悪い顔をして、僕のスウェットを脱がせると、唇で太腿に触れる。この人、朝からエチエチ過ぎるんですけどっ。
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