キミの隣、ふわり

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「今日は一日、よろしくお願いします」  楓さんのお店——宮尾酒店の入り口で、ペコっと頭を下げると 「そんな堅苦しい挨拶いらないよー。俺と司きゅんの仲じゃん」  と、楓さんが笑った。 「じゃあ、楓、司のこと頼むね。そんなに時間かからないと思うけど、これ昼飯ー」 「わぁ、お弁当?やった‼︎後で食べようね、司きゅん」 「はいっ」 「じゃあ、行ってきます」 「いってらっしゃい」  お店の前に出てお見送りをする。打ち合わせというだけあって、いつもはラフな格好をしている龍さんが、今日はスーツを着ている。背が高くてすらっとしているから、めちゃくちゃ似合う。めちゃくちゃカッコいい。お店で働く時は、動きにくいから無理だろうし……、実はスーツ姿って貴重なのでは?帰ってきたら写真撮っておこうっと。 「なに、見惚れちゃってた感じ?」  楓さんに背後から覗き込まれて、僕はこくりと頷く。 「今日の龍さん、すっごくカッコいいです」 「そうだね。気合い入っちゃってるね」 「気合い……」 「そう、気合い。でもさ、この間のお祭りの日。司きゅんもスーツ着てたじゃん?髪も、いつもみたいにサラサラーって感じじゃなく、ピシッとしてて、カッコいいなって思ったよ」  そう言いながら、お店へと入って行く楓さんの背中を追う。  ママが仕立ててくれたあのスーツは、クリーニングに出した。もう着ることもないだろうから、戻ってきたらクローゼットの奥深くにしまいこもうと思ってる。  レジカウンターの奥にある、一段高くなったお部屋の端に腰掛けた楓さんが 「どうせ暇だから、ここでテレビ観てていいよ?あ、ゲームする?」  と、部屋の中を指差している。 「ありがとうございます。でも、楓さんと店番します」 「本当?それは嬉しい」  楓さんの隣に腰掛けて、店の入り口を眺めていると、左の頬をツンツンされた。 「腫れ、すぐひいて良かったね」 「え?」 「スーツ着てた日、誰かにほっぺ叩かれたんでしょ?腫れてたよ」  楓さん、気づいてたんだ……。龍さんが用意してくれたタオルで冷やしたから、次の日の朝には、腫れはひいてた。でも、心は今も痛いままだ。
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