キミの隣、ふわり

101/109
前へ
/119ページ
次へ
「僕、ママに嘘ついて龍さんのとこに泊まってたんです。友達と口裏合わせて、アリバイ工作してたのがバレて……。  もちろん悪いことしてるとは思ってました。謝りたいとも思ってました。でも、僕の話も聞かずに、ママは叩いたんです。だから家出しました。出て行きなさいって言われたし、ちょうど良かった」 「司きゅんも、親に反抗したりするんだね。意外ー」 「今まで反抗してこなかったから、ママは受け止められないんだと思います。ずっといい子でいてあげれば良かったかな……、って思ったり、思わなかったり……」 「20歳だもんね。オトナだもんね」  楓さんは後ろに体を倒して、床の上に寝転がり、頭の下に腕を入れた。 「親父が死んだのが4年前。俺、今の司きゅんと同じ、20歳だったんだ」 「え?」  驚いて振り返ると、楓さんはいつも通り笑っていた。 「高校2年の時に、母さんは男を作って出て行った。一緒に行こうって言われたけど、ちょうど反抗期だったし、母さんについて行くとかダサって思って、ここに残ったんだ。  それ以来、親父は自暴自棄になって、酒ばっかり飲むようになった。ろくに働かない親父を見かねて、商店街のレストランや居酒屋が契約してくれて、それでなんとか稼いできたって感じ。今も、すっげー助けられてる。  高校卒業してからは、俺がこの店を潰さない程度にやってきた。いつか、親父が心を入れ替えてくれるって信じてたから……。でも、結局、死んだ。呆気なく」  そこまで言うと、楓さんは体を起こし、僕の肩に頭を乗せた。 「親がさ、ずっと生きてるなんて妄想だよ。死んじゃうんだよ、必ず。伝えたいことがあるなら、伝えた方がいい。たとえ喧嘩になったって、叩かれたって、後で後悔するよりは、ずっとマシだよ」  楓さんは今でも後悔しているんだ。飲まないと、心の奥底にあるごちゃごちゃした感情を、制御できない。そう言っていた。楓さんが、ハイペースで飲む時は、きっと心が痛くて、寂しくて、どうしようもない時なんだ……。  パパとママが、いつか死んでしまうなんて、考えたこともなかった。分からず屋のママなんて知らないって思っていても、もし、そうなってしまった時には、僕はきっと大泣きするんだろう……。  楓さんの髪を撫でながら 「話してくれてありがとうございます。僕、ママとちゃんと話します。また、叩かれるかもしれないけど……、もう、嘘はつきたくないから」  と、言うと、楓さんは 「それが良いよ。ほっぺが腫れてる司きゅんも可愛かったし」  と、破顔した。 「また飲みたくなったら、誘ってくださいね」 「うん。絶対、誘う。絶対、朝まで飲む」  楓さんが、心から笑える日がいつか来る。僕はそう信じたい。心の傷も、後悔も、全部全部まとめて、笑える日が来る。じゃなきゃ、生きることは痛いことばかりになってしまう……。未来は明るいんだよって、信じたい。
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

892人が本棚に入れています
本棚に追加