キミの隣、ふわり

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   数時間ぶりに確認したスマホには、5つ上の兄からメールが届いていた。  そこには、龍さんがパパと話をしてくれたこと。僕が、これからのことを自分で決める為に、少しでも構わないから時間をあげてほしいと頼んでくれたこと。話し合いの途中でママが乱入してきて、龍さんの頬を叩いたこと。  そして、ママの過干渉に気がついていながら、手を差し伸べてやらなくて申し訳なかったという謝罪と、落ち着いたら、一度帰っておいで、ということが書いてあった。  龍さんはどうして僕に内緒で、パパに会いに行ったんだろう……。ママは、龍さんを傷つけることを言わなかっただろうか……。龍さんは、こんなに面倒な僕と、別れたいと思っていないだろうか……。  ドクンドクンと早鐘を打っている心臓に手を当てる。龍さんと話すのが、怖い……。  龍さんがスーツから部屋着に着替えている間に、僕は居ても立っても居られなくなって、龍さんの家を飛び出した。  こんなことをしても、何も解決しないことくらい分かってる。でも、怖くて仕方がなかった……。  今すぐ家に帰れって言われたら?もう、一緒にはいられないって言われたら?僕は、どうしたらいい?  頃毛さんの唐揚げとコーンクリームコロッケと塩むすびを一緒に食べた東屋で、膝を抱えて1人で泣いた。泣いたってどうにもならないのに、ただただ泣いた。  しばらくして、陽が傾き始めた空から、雨粒が落ちてきて、公園で遊んでいる子どもたちは、みんな帰って行った。静かだった。雨が降る音だけが、僕の耳を支配していた。  だから、すぐに分かった。だんだんと近くなる足音と、傘の上で跳ねる雨の音——龍さんだって、すぐに分かった。 「はぁ、はぁ……、良かった、ここにいて。心配した……」  龍さんは僕に駆け寄ると、全てを包み込むように抱きしめた。息が上がっているのは、僕の為に走ってくれたからだ。走るの嫌いって言ってたのに……。 「ごめん、なさい……」 「謝るくらいなら、俺の前から勝手にいなくなるなよ……」 「だって……、別れようって言われたら、どうしようって、思ったら、怖くて……」 「そんなわけないじゃん。俺は、別れたくないから、司のご両親に会ってきた。だから、こんなことしなくていいんだよ」  涙でぐちゃぐちゃになった僕の顔を撫でながら 「やっぱり、泣き顔も可愛い」  と、言って、龍さんはキスをくれた。唇と唇が触れ合う、ただそれだけのことなのに、不思議と心があたたかくなる。 「僕……、龍さんの傍にいていいの?」 「いいも、なにも、司は俺の傍にいなきゃいけないの。分かったら返事」 「っ、はい」  雷様が空の上で、雨の素を全部ひっくり返してしまったみたいな雨だった。1本しかない傘を2人でさして、商店街のアーケードにたどり着いた頃には、僕たちはすっかり濡れ鼠だった。
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