キミの隣、ふわり

104/109
前へ
/119ページ
次へ
「何これ、集中豪雨?」  龍さんは傘を畳みながら、地面で跳ねている雨粒を見て苦笑いしている。 「濡れちゃいました、ね」 「司のせいだからな。帰ったら一緒にお風呂の刑だ」 「えー……」 「えー、じゃないっ」 「龍さん、エッチなことするから……」 「今日はしないよ」 「本当かな……」 「本当、本当ー」  僕たちは仲良くお風呂に入った。お互いの髪や体を洗い合って、向かい合って湯船に浸かった頃には、ここに居てもいいんだって思えて、心が軽くなった。やっぱり僕は、龍さんの傍にいたい……。 「痛くないですか?」  今も、少し腫れている龍さんの頬に触れると 「痛いけど、これは、司のママが司を大切に思ってる証だから。俺は、この痛みを忘れちゃいけないんだ」  って、言われた。 「パパと何話したんですか?」 「司のことを大切に思っています。司は、自分自身の存在意義や将来のことに悩んでいます。だから、少し時間をあげてくださいって感じかな。後は、うちの会社に入らないかって、誘われた」 「え?龍さんが、パパの会社に?」 「元嫁のお父さんがシェフだったって話はしたじゃん?そのレストランが、司のパパのホテルに入ってるんだ。俺は料理ができなかったから、広報とか経理とか、まぁ、裏方の仕事だね、そういうことをやってたんだ。  で、実は、司のパパとも会ったことがあるんだ。俺が淹れたコーヒーを飲みながら、オフィスでよく仕事の話をした。すごく楽しくて、有意義な時間だった。  そのことを覚えていてくれたみたいで、離婚した後、連絡をもらった。うちの会社に入らないか、って。でも、俺、ホテルの知識ないし、丁重にお断りしたんだ。  そしたら、偶然、司に出逢った。司の苗字が加賀美だって聞いた時、俺たちは出逢うべくして出逢ったのかもな、って思った。司のパパも、切れかけた縁を、司が繋いでくれた。感謝しなきゃな、って笑ってたよ」  嘘でしょ?まさか僕よりも先に、パパが龍さんに出逢っていたなんて……。なんだか悔しい。僕は、パパと龍さんを繋げる為のキューピッドなんかじゃないっ。龍さんは僕のだっ。 「どした?なんか怒ってる?」 「怒ってないです。僕、もう上がります」  困惑している龍さんを残して、僕はさっさと着替えて洗面所のドアを閉めた。なんだろう、モヤモヤするっ。冷蔵庫を開けて、水のペットボトルを取り出して、どかっとソファに座った時、龍さんが洗面所から出てきた。 「髪、乾かさないと風邪ひくよ」  隣に座った龍さんに、タオルで髪の毛を拭いてもらっていても、やっぱりモヤモヤする。あーっ、もうっ。
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

892人が本棚に入れています
本棚に追加