キミの隣、ふわり

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   ペットボトルを開けて、ぐいーっと傾ける。お風呂上がりの水、うまっ‼︎生き返るっ‼︎ 「俺にもちょうだい」  と、言って手を伸ばした龍さんから、ペットボトルを遠ざける。 「やです。僕のですっ」  龍さんに背を向けて、水を飲む。全部飲んでやるっ‼︎と、思ったけど……、さすがに無理かも。お腹タプタプだ。ペットボトルを口から外すと、龍さんが僕の手からペットボトルを奪って、テーブルの上に乗せた。 「司。なんで怒ってるの?」 「怒ってないです」 「怒ってないなら、こっち見てよ」  しぶしぶ振り返って、じとーっとした目で龍さんを見ると、ふふっと笑われた。 「めちゃくちゃ怒ってるじゃん。何か嫌なこと言ったなら教えて」 「何も言ってないです。ただ……、ただっ‼︎僕よりパパの方が先に、龍さんに出逢っていたのが、なんか悔しいんです。僕の知らない龍さんを、パパは知ってる。生きるのツラ……、って思って金髪にする前の、本当の笑顔をパパは知ってる。龍さんのカッコいいスーツ姿を、僕より先にパパが見てる。そんなの許せないっ」  龍さんは目を瞬かせ、それから、お腹を抱えて笑い出した。 「笑うなんて酷いですっ‼︎」 「あははっ。ごめん。ごめん。司があんまり可愛くてさ。あ、そういうことね。ほら、おいで」  龍さんがクスクス笑いながら、両手を広げて待っている。 「もう、笑わないでください」 「分かった。もう、笑わない。ほら」  腕を引かれて、龍さんの胸に頬を当てる。僕と一緒で、ドキドキしてる。そんなことが、馬鹿みたいに嬉しい。 「司に見せてる俺は、きっと、他の誰も見たことがない俺だよ」 「そうなんですか?」 「そうだよ。司が好きで好きで、欲しくて欲しくてたまらない。そう思うのは、司を見ている時だけだよ。司の目には、俺が映ってるし、俺の目には、司が映ってる。見える?」  顔を上げて、龍さんの瞳を覗き込む。そこには、確かに僕が映っていて、僕の瞳には、龍さんが映っているんだろう。 「司が好きだよ。ずっと一緒にいよう?」 「はい。ずっとずっと一緒にいます」  龍さんは満足そうに微笑むと、僕の手を引き、寝室へと向かう。廊下を歩きながら——階段を上りながら——僕たちは何度もキスをした。啄むようなキス——舌を絡め取られ、立っていられなくなりそうなキス——頬や耳や額にされるキス——そのどれもが、僕を虜にする。  ベッドに組み敷かれた時には、僕の心拍数は既に跳ね上がり、体が熱くて仕方がなかった。  龍さんの唇が、手が——僕の唇に触れ、肌に触れる。舌を絡め、指を絡め、脚を絡める。 「気持ちいい?」  熱のこもった瞳で、そんなことを言われるだけで頬が熱を持ち、口からは絶えず声が漏れる。 「っ、ぁっ、……んっ」  恥ずかしいのに、気持ちいい。気持ちいいけど、恥ずかしい。もっと、触れて欲しい。もっと、熱を感じたい。  今までは、こういう時、自分が支配するのが当たり前だと思っていた。唇を重ね、服を脱がせ、体をなぞる。反応のある場所に手で、指で、唇で触れ、快楽を与える。体を重ねる時だってそうだ。何度も腰を打ちつけ、彼女を鳴かせ、イかせることに夢中だった。  でも、今は違う。僕の体は全て、龍さんに支配されている。僕が龍さんに快楽を与えているのは、重なっている時くらいだ。後は、与えてもらうばかり。 「っ、あっ、……ねぇ、龍、さんっ。僕も、した、いっ」  限界近くまで熱を持った僕自身に舌を這わせながら、龍さんがチラリと見上げる。やめてよ、そんな目で見るの。それだけで、イきそうになる。 「あっ、ま、って、や、だっ」  どんなに懇願しても、龍さんは手の動きも、舌の動きも止めてくれない。本当に意地悪だ。意地悪だけど、抗えない。もっと、もっと、って求めてしまうんだ。  汗ばんだ肌と、吐き出す息と、お互いから発せられる熱を重ねながら、このままベッドの中でとろとろに溶けて、そのうち僕と龍さんはひとつになってしまうかもしれない。もし、そうなったら——どれほど幸せだろう。心も体も、何もかもがひとつになって、もう2度と離れることができなくなればいい。そんなことを考えていた。  誰でも同じなわけじゃない。龍さんだから——龍さんじゃなきゃ——僕は、ダメなんだ。  
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