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そして、龍さんは龍さんで、お店だけじゃなくて、パパの仕事も手伝い始めたみたいで、忙しくしてるから寂しさが紛れて丁度いいよ、なんて電話で笑ってた。
パパは、時間ができると、龍さんのお店に行ってコーヒーを淹れてもらっているそうだ。コーヒーを飲みながら、龍さんと意見交換をしていると、頭が冴えて、良いアイデアが生まれるらしい。
僕は、ふらっと龍さんに会いに行くことなんてできないのに、パパって本当にズルい。
たまに、ママも一緒に行くことがあるらしく、史乃さんや文音さんや、頃毛精肉店のおばさんからメールが届いた。
「司きゅんのママ、面白い人だね」
と、いう言葉が、褒め言葉なのかは不明だけど……、僕の大好きな人たちとママが関わろうとしてくれることには感謝しかない。僕の代わりに、素敵なプレゼントも選んでくれたみたい。今度帰る時は、ママにプレゼントを買って帰らなきゃ。
お正月にうちで集まった時、龍さんとママの心の距離が近くなっていて安心した反面、兄さん達ともすっごく仲良くなっちゃってて、なんだか僕だけが仲間外れみたいで寂しかった。一緒にいるのに、話に入れないって悲しい……。
今だって、日本では僕抜きで楽しく過ごしているんだ。それはそれで良いことだし、嬉しいんだけど……、やっぱり寂しい。
「あー、僕はどうすれば……。寂しいけど、会いたいって言ったら困らせてしまうし……。でも、寂しいし……。ねぇ、どうしたらいいかな?」
テーブルにばたっと体を倒して、真彩さんを見上げると、呆れたように息を吐かれた。
「司くんが頑張ることはお勉強。それ以外ありません。その為にアメリカまで来たんでしょ?お互い頑張ろうって、龍さんと約束したんでしょ?時間を無駄に使ってたら、2年なんてあっという間だよ?
距離は離れていたって、司くんがいつも龍さんのことを想っているように、龍さんも司くんを想ってる。それって、凄く素敵なことで、奇跡みたいなことなんだよ?本当は分かってるんでしょ?」
真彩さんは、僕よりもずっとオトナだ。頻繁にホームシックになってしょぼくれたり、無神経に龍さんの話をする僕のことも、こうしていつも慰めてくれる。真彩さんがいてくれて良かった。
「……真彩さんって優しいよね」
「今ごろ気がついたの?遅ーいっ。遅すぎーっ」
「ごめん……」
「やだな、謝らないでよ。司くんは何も悪くないよ。私、司くんとこうやって何でも話せる友達になれて嬉しいんだ。だから、もし私が落ち込んだ時は、慰めてよね」
「もちろんだよ‼︎全力で慰める‼︎」
「ふふっ。ありがとう。頼りにしてる」
僕は、ずっと自分が1人で生きているんだと思っていた。バスから見る景色には、たくさんの人々がいるけれど、その人達はみんな知らない人々で、一生関わることなどないと思っていた。一度すれ違ってしまえば、それは過去になって、もう二度と会うこともないんだって……。
あの日——見知らぬ街の、見知らぬ商店街に足を踏み入れた。あの時は、知らない人々ばかりだったあの場所が、今では僕の心を癒し、支えてくれている。こんなに不思議なことってないよね。
僕はあの場所に逃げ込んだのに、ふとした時に思い出す、みんなの笑顔や、優しくしてくれたエピソードが、慣れない土地で日々を過ごす、僕の糧になっている。
1人だと思っていた。それは大間違いだったってことに気がつけたから、あの時、反抗してみたことも、アレはアレで良かったんじゃないかと、思っている、今日この頃。
日本に帰ったら、親孝行しよう。僕はもう、1人じゃないから、なんだってできるような、そんな気がしてしまうんだ。
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