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「はぁ、お腹すいた……」
近くに食事ができるところはないだろうか、と辺りを見渡す。
家に帰れば、ママが作った夕飯が用意されている。意気地のない僕は、結局、このまま家出なんてする度胸もなく、暗くなる頃には家に帰ってしまうんだ。
だから、少しでいい。家に帰り着くまでの間、空腹で倒れてしまわない程度に、軽くお腹に入れておきたい。
「そうだ。コロッケ買って帰ろうか」
ふと耳に届いた食べ物の名前に、声のした方へと素早く視線を向ける。声の主は、2人の子どもに挟まれるようにして歩いて行く女の人だ。
夕飯はコロッケですか……。揚げたてのサクサクコロッケ……。食べたい。
「僕ね、僕ね、3個食べられるよ」
幼稚園生くらいの男の子がそう言うと
「私は5個。私の方がたくさん食べられるもんね」
と、小学校低学年くらいの女の子が対抗した。
僕も5個は食べられそうだな、いや、7個かな。両手にコロッケを持って、贅沢に食べる姿を想像する。はぁ、もう無理だ。
空腹に耐えられず、少し距離をあけて、仲良し家族について行くことにした。ストーカーまがいなことをしているのは重々承知してるけど、空腹には勝てません。
仲良し家族は、公園に面している道を歩き、十字路で左に曲がった。信号が赤になって、僕だけが道路の反対側に取り残されてしまったけれど、後を追わなくても、仲良し家族の行き先はすぐに分かった。
『あららぎ商店街』
そう書かれた、ちょっと古くさい……、いや、レトロで味のある看板が目に入ったからだ。
信号が青に変わる頃には、僕の心は踊るように高鳴っていた。商店街。商店街。商店街。はじめて訪れる商店街という場所に、気がつけば駆け足になっていた。
ここが入口ですよ、と示してくれている、アーチの真下に立った時——僕は、ここからナニかがはじまるような、そんな気がしたんだ。
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