キミの隣、ふわり

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   結局、僕はコロッケを二つ食べた。おばさんがオススメしてくれたおいもごろごろコロッケとコーンクリームコロッケ。  それが、めちゃくちゃ美味しくて、本当に美味しくて、温かくて、驚いてしまった。そして、少し泣きそうになった。  食べ物ってこんなに美味しいんだ……って、思った。ママの作ったご飯は、なにも味がしないから……。 「今日は何時に帰る?」  味のしない(僕だけらしい)オムレツをとても満足そうに咀嚼した後、無駄に大きいダイニングテーブルを挟んで、向かいの席に座っているママが僕に聞いた。 「授業が終わったら帰ってくるよ。いつも通り」 「そう。車で迎えに行くわね」 「大丈夫だよ。僕、もうハタチだよ。オトナだから、一人で帰ってこられるよ」 「それは分かっているけれど、(つかさ)はお兄ちゃんたちと違ってのんびり屋さんだから、ママ、心配になっちゃうの」  ママが心配するのはもっともだ。5つ上の兄も、3つ上の兄も、すこぶる頭の回転が早い。  そして、主張するべきところはきちんと主張する。嫌なモノは嫌だと言って、パパやママと、とことん議論する。そして、お互い譲り合うところは譲り、丁度良いところにうまく着地させる。  僕はそれができなかった。主張するにも、何をどう言えば良いのか分からなかった。言葉が出てこなかった。  だから、何を言われても「はい」と答えるようにしていた。その方が円滑に物事が進んでいくと思ったから。  かといって、僕が何も主張したくなかったわけじゃない。気づいてほしい——そう思っているだけじゃ、ダメだったんだ。最近になって気がついた。
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