キミの隣、ふわり

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「チーズカレーも美味しいし、塩レモンも爽やかで美味しいのよ?メンチカツは揚げたて。なんなら、唐揚げにする?」  戸惑っている僕にはお構いなしで、おばさんは人懐っこい笑顔で、次々と商品をオススメしてくれる。  たくさんの種類のお惣菜が並ぶショーケースを眺めていると、さっきまで最悪だった気分が、ゆっくりと良くなっていくのが分かった。 「コーンクリームと、どうしようかな、唐揚げください」  唐揚げが5つ入った小さなパックを指さすと、隣に塩むすびがあるのを見つけた。 「あと、おにぎりもください。ふたつ」 「はい、かしこまりました。家、近くなの?」  そう聞かれて、首を横に振った。 「バスに乗って来ました」 「そうなの?遠路はるばる、こんな寂れた商店街に来てくれてありがとうね。はい、どうぞ。あ、箸も入れとくわね」  おばさんは、コロッケと唐揚げと塩むすびと割り箸を手際良くビニール袋に入れて僕に渡すと 「そうだ。ちょっと待っててね」  と、言って店の奥に入って行った。  ビニール袋の口を開き、中を覗くと、手元からふわりと美味しい香りが広がって、自然と口元が緩んでしまった。美味しそう。美味しそう。美味しそう‼︎  口の中が涎で洪水になりかけた時、おばさんが戻って来た。 「はい、おまたせ。これサービスね。熱いうちに食べなさい」  目の前に差し出されたのは、紙の袋に入っているメンチカツだった。  これは、テレビ番組で芸能人が、店先で食べてる揚げたてコロッケのビジュアルそのものだ。紙の袋に入ってるコロッケ、初めて見た。凄い、凄い‼︎  それに、見ただけで分かる衣のサクサク感‼︎絶対に美味しいやつ、これ。 「いい、んですか?」 「子どもが遠慮なんてしないの。はい、食べて」  おばさんからメンチカツを受け取ると、片手にメンチカツ、反対の手にはビニール袋という、かなり食いしん坊みたいな姿になった。悪くない。
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