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龍さんの背中に腕を回して、薄く口を開けた時、2階からグラスの割れる音と、アスナさんの悲鳴が聞こえた。
「なんだ?」
「行きましょう」
急いで階段を上がり、部屋の中を見回すと、アスナさんがキッチンに座り込んで泣いていた。
「どうしたんですか?」
その姿に驚いて駆け寄ると、アスナさんはポロポロと涙を溢しながら、僕に抱きついた。
「龍先輩がいないうちに、片付けしておこうと思ったの。そしたら、グラス落として割っちゃったの。どうしよう。怒られちゃうよ〜。うわぁ〜ん」
「大丈夫ですよ。龍さんは、グラスを割ったくらいじゃ、怒ったりしませんよ」
「本当?」
「本当です。それより、アスナさんは怪我しなかったんですか?」
子どもみたいに泣いているアスナさんの手を確認する。怪我がないようで安心した。
「司。俺、ここ片付けるから、アスナそっちに連れてって」
龍さんはシンクの中を見て、小さく息を吐くとパーカーの袖を捲った。
「はい。アスナさん行きましょう」
アスナさんはコクリと頷き、僕の促すまま小上がりに座った。今夜は、ゆっくりとお酒を嗜んでいる楓さんは、アスナさんを見て笑い転げている。酔ってはいるみたいだけど、まだ眠たくはなさそうだ。
「あんなに敵意剥き出しだったのに、酔った途端、司きゅんに懐くとか、マジでウケる」
「アスナさんって泣き上戸だったんですね。僕としては、こっちのアスナさんの方が怖くなくていいんですけど……」
ずっとシクシク泣かれると、なんだか胸が痛くなってくる。どうしたら笑ってくれるかな。
「アスナさん、何か飲みますか?あ、チーズ食べます?」
「ううん、いらない。だって、グラス割っちゃったし……」
「グラスはもう片付けたから、心配するな」
龍さんは僕と楓さんの間に腰掛けると、缶ビールを傾け、唐揚げを口に放り込んだ。
「司、先に風呂入ってくれば?」
するりと首筋を撫でられて、さっき階下でしたキスを思い出す。やだな……、僕、いつからこんなに、いやらしくなったんだろう。
「ねぇ、もしかして俺たちお邪魔?」
背後から龍さんを抱きしめた楓さんが、妙に真面目な顔をして、そんなことを言うから、僕の顔が一気に赤くなる。
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