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「ちょっと、うちの常連さんに失礼なことしてんじゃないよ」
おばさんは金髪大男の3倍くらいの力で、金髪大男の肩を叩くと
「ベーコンね。ベーコン、あったかしら」
と、言って店の奥に入って行った。
おばさんがいなくなると、急に心細くなった。お金巻き上げられる。どうしよう……。恐る恐る視線を向けると、金髪大男とばっちり目が合った。
「そっか、キミ、ここの常連さんなんだ。怖がらせたなら謝るよ。ごめん。
俺さ、ここからずーっとまっすぐ行ったとこでカフェやってるから、今度来てよ。商店街の一番奥。知ってる?」
「……いいえ」
なんと、この金髪大男はカフェのオーナーなのだそうだ。なるほど。逞しい腕と、なかなかの美男子である顔面と、誰とでも仲良くなれちゃう抜群のコミュニケーション能力で、カフェに来る女の人たちを、きゃっきゃ、うふふ、言わせているのですか。
僕はモテない。だからって、金髪大男に対して、僻んでいるわけでも、妬んでいるわけでもない。断じて。
「そうだ。これからおいでよ。この後、なんか用事あるの?」
「……いや、ないですけど。遠慮しておきます」
ちょうど店から出てきたおばさんに頭を下げ
「さようなら。また来ます」
と、言って慌てて背を向けた。触らぬ神に祟りなし、だ。
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