キミの隣、ふわり

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「思ったより道が混んでるわね。お買い物は無理かしら……」  どうしても買い物をしたいママに、運転手さんは 「パーティー会場に真っ直ぐ向かった方が良さそうですね」  と、言った。  僕はどちらでも良いから、ただただ窓の向こうを見ていた。土曜日ということもあり、家族連れや、恋人同士、友達同士で出掛けている人々で、街は賑わっている。  あの中に、僕と龍さんがいたらいいのに……。そんなことを考える。お互いに似合いそうな服や靴を選んだり、人気のお店に並んでランチを食べたり、歩き疲れたね、なんて言いながら、公園のベンチに並んで腰掛けたり……。  特別なことじゃなくていい。街を歩いてる人たちが、当たり前のようにしていることを、龍さんとしたいだけなんだ。  渋滞という程ではないけれど、ノロノロと動く車で、途中、パパをピックアップして、僕たちはパーティー会場に辿り着いた。  今夜のパーティーのホストは、パパの親友である(あがた)さんだったらしい。郊外にあるたいそう立派なお屋敷は、大きなバルコニーと大きなプールがあって、ロミオとジュリエットが愛を囁き合いそうな雰囲気を出している。何度来ても、ピカピカの大理石の床と、真っ白な壁が眩しくて苦手だ。 「もっと、早く来ると思っていたのに、随分と遅かったな」  と、言った縣さんに 「悪いな。道が混んでいたんだよ」  と、パパが答え、そこから仕事の話を始めた。ママはパパの隣で、うんうんと頷いているけど、僕には何が何だかさっぱり分からない。  というより、話が頭に入って来ない、という方が正しい。大きな窓の向こうでは、オレンジ色の陽がゆっくりと沈んでいく。夜が来る……。 「司くんっ」  不意に、肩を叩かれて振り向くと、大学で話しかけてきた、見知らぬ女子が、可愛らしいピンク色のミニドレスを着て立っていた。この子も招待客だったんだ……。 「司くん、今日いつにも増してカッコ良くて、びっくりしちゃった。私も、頑張ってお洒落して良かった……。どう?」  そう言って、その場でくるりと回った彼女のスカートがゆらゆら揺れて、お花の香りが辺りに漂った。 「うん。可愛い、と思う」 「本当?ありがとう。嬉しい……」  彼女は白い頬をドレスに負けないくらいピンク色に染めて、僕の腕に自分の腕を絡めた。 「ねぇ、パパ。司くんと2人でお話ししてもいい?」  彼女がパパと言って話しかけたのは、縣さんだった。 「おいおい、パーティーはまだ始まったばかりだというのに、もう2人で抜け出そうとしているのか?」 「パパたちはお仕事の話ばかりで、つまらないもの。行きましょう?司くん」  彼女に腕を引かれてバルコニーに出た時、唐突にママの言葉を思い出した。 「縣さんの娘さんが、司のことを好きなんですって。明日のパーティーでちゃんとご挨拶してね?真彩(まあや)さんがお嫁さんになってくれたら、ママ嬉しいわ」  そうだ。なんとかさんの誕生日パーティーで、彼女に挨拶をされたけど、僕は少しも真面目に話を聞いていなかった。結婚?僕と彼女が?
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